تسجيل الدخول元日のことだった。 国際遠距離恋愛にきっぱり終止符を打つため、彼氏の篠原蒼生(しのはら あおい)は、十数時間のフライトで帰ってくる。 その時、なんとなくスマホをスクロールしていた私の目に、ある掲示板のスレッドタイトルが飛び込んできた。 【愛って、距離を乗り越えられるのか?】 一番「いいね」がついているコメントは以下のようだった。 【乗り越えられないな。 国際遠距離恋愛なんて、会うたびに何万キロも移動しなきゃならないし、片道で平気で十数時間もかかる。 やっと会えたと思っても、すぐにまた別れの時が来る。そこから先は、また長くて終わりの見えない離れ離れの日々だ。 どれだけ熱烈な愛だって、その十数時間の移動と待ち時間ですり減って、消えていくんだよ。 もうすぐ彼女とは998回目の再会になる。飛行機を降りたら、そろそろ、この関係を真剣に見直そうと思ってる】 読み進めるうちに、胸の奥がギュッと締め付けられた。 蒼生にこのスレをシェアして、「わかるかも」なんて感慨深げに語り合おうとした、ちょうどその時。 彼が離陸前に送ってきたメッセージが、画面にポップアップで表示された。 【ひな、これが俺たちの998回目の再会だね。 着いたら、話したいことがあるんだ】
عرض المزيد「頼む!本当にクズだった。お前が嫉妬したり悲しんだりするのを見て、優越感に浸ってた……でも、これからもう絶対にそうしない!頼む、ひな!俺にはお前しかいないんだ!」私は足を止め、深く息を吸い込んだ。ゆっくり振り返り、蒼生を見つめる。そして右手を思いきり振り上げて、蒼生の頬を力いっぱい張った。蒼生はよろめき、言葉を失う。私はもう一度背を向けた。するとふと、さっきのクラスメイトがこちらへ走ってくるのが見えた。その後ろには、体格のいい男が二人ついている。男たちは険しい顔で蒼生に近づくと、追い払うように前へ出た。F国語で何かまくしたてていたけれど、聞き取れたのは「消えろ」と「次はないぞ」くらいだった。クラスメイトが隣に立ち、腕を組んで言う。「さっき、キャンパスの外にいたボディーガードを呼んできたの。どう?かっこよかったでしょ?」私は思わず目を輝かせた。「かっこよかったよ!」彼女は私の肩をぽんと叩き、真剣な顔で言った。「ひな、あの元カレ、見るからに自己中のクズなんだから、絶対に許しちゃダメよ!」私は真剣にうなずき、改めて礼を言った。彼女は「家の運転手の車で帰りな」と言ってくれた。そのあいだ、私は一度も蒼生を見なかった。それからの日々は、淡々と過ぎていった。少しずつ授業にも慣れ、いくつか賞ももらった。半年後、国内の親友と久しぶりに電話をしたとき、彼女がふと蒼生の話を持ち出した。その名前を聞いた瞬間、少し頭がぼんやりした。別に未練があるわけじゃない。ただ、顔を思い出すのに少し時間がかかっただけだ。友人が続ける。「ねえ、知ってた?彼、退学したらしいよ。帰国した当日、ぼーっとしてて交通事故に遭ったらしくて、両手がほとんど使えなくなっちゃったんだって。あの専攻じゃ、手が使えなきゃどうにもならないでしょ。それで大学側が『自宅療養』って形で自主退学を勧めたんだって。本人も特に抵抗しなくて、そのまま帰国したみたい。あ、そういえば噂になってた彼の浮気相手、覚えてる?小林由紀って子。二人も大ゲンカして、完全に切れたらしいよ。あの子、もともと評判悪くて、彼氏持ちばっか狙うタイプだったみたいだし。最近、大学から処分も受けたらしい。ほんと、因果応報だよね……ひな?ひ
「もういい」私は静かに、彼の言葉を遮った。「別れよう」向こうの声が、ぴたりと止まる。沈黙のあと、私はもう一度口を開いた。「今度はちゃんと伝えるね。これで、もう終わりにできるよね」「……」蒼生の声は、かすかに震えていた。「……なんでだよ、ひな?まだ俺のこと恨んでるのか?ごめん、傷つけて。もう一度だけ、チャンスをくれないか?」どうして男って、取り返しがつかなくなった時にしか「ごめん」って言うんだろう。ふと、ある友だちのことを思い出した。あの子も、蒼生と同じような彼氏と付き合っていた。彼女が別れを切り出した瞬間に限って、急に謝りだし、「悪かった」と言い始めた。そんなふうに手のひらを返す理由は、たぶん二つしかないと思う。一つは、そもそも自分が何を間違えたのか理解していない。ただ「元の関係に戻りたい」だけの謝罪。もう一つは、最初からやってはいけないことはずっとわかっているのに、それでもやった。どちらにせよ、許されない。「来ないで。私たちは、もう終わったの」そう言って、少しだけ考えてから付け加えた。「じゃね、私を手放したあなたが、二度と幸せになれませんように」電話を切ると、世界はしんと静まり返った。……朝早く起きて、パンを買いに行き、それを朝食にした。それから近所の花屋に寄って、好きなスイセンを一束買った。人通りが少しずつ増えてきた通りで、しばらくぼんやりしてから家に戻る。授業が始まると、忙しさに飲み込まれそうになった。昼は講義、夜は復習。F国語はまだあまり得意じゃないから、授業ノートを全部母語に訳してからでないと頭に入ってこない。でも、もう蒼生のために頑張る必要はない。だからこそ、逆にやる気が湧いてきた。休み時間には、先生やクラスメイトにも積極的に質問するようになった。ある穏やかな午後、クラスメイトと一緒にキャンパスを出たとき、門の前で、見慣れたあの姿を見つけた。そこにいたのは、まさかの蒼生だった。手には、スイセンの花束。私を見つけた瞬間、ぱっと目を輝かせる。「ひな!」蒼生は手を振りながら、大股でこちらへ近づいてきた。クラスメイトが、からかうように聞いてくる。「彼氏?」私は首を横に振り、クラスメイトの手を引
全部、捨てられていた。そのときになって、蒼生はようやく気づいた。陽菜は、本当に自分を手放したのだと。……私は15時間のフライトを経て、ようやく目的地に着いた。飛行機を降りるとすぐにタクシーを拾い、アパートへ向かった。それからは荷ほどきに、食材の買い出し、入学手続きと、目が回るほど忙しかった。着いたその日から、忙しく動き回っていた。ようやく一通り片づいて、ひと息ついたときには、もう夜の10時だった。簡単な夕食を作り終え、ようやく丸一日ぶりにスマホを開く。機内モードを解除した途端、大量の通知が一気に押し寄せてきた。ほとんどが蒼生からの着信とメッセージだった。その合間に混じっていた数件の友人たちからの安否確認が、かえって不自然なくらいだった。電話には出ず、蒼生が送ってきた長文メッセージを読んでみる。最初は怒りにまかせた問い詰め。【なんで黙って出て行ったんだ?なんで『別れた』なんて周りに言ったんだ?】やがて、メッセージは不器用な言い訳めいた内容に変わっていった。【捨てられてたプレゼント、見た。気に入らなかった?次はもっといいヤツを作ってやるよ】そして最後は、必死な謝罪と懇願。【ひな、最近ほんとにごめん。傷つけたよな。電話に出てくれないか。ちゃんと話したい。お願いだから出て。俺が悪かった】こんなふうにみっともなく謝るメッセージは、いつも私のほうが送っていたものだった。昔の蒼生は、すぐ怒った。三通続けてLINEを送っただけで怒った。予定を聞いただけで怒った。もっと話したいと言っただけでも怒った。そのうち私は「謝る」ことにすっかり慣れてしまって、彼がどのタイミングで怒るかまで予測できるようになっていた。今読み返してみると、あの頃の私は本当にみじめだったと思う。私は一通も返信せず、そのまま蒼生をブロックした。国内の友人たちにだけ「無事着いたよ」と伝えて、ベッドに潜り込む。そのまま深い眠りに落ちた。夢の中で、蒼生が険しい顔で私を問い詰めていた。「お前、自分が何様だと思ってるんだ?俺以外に、お前みたいなバカな女を拾うヤツがいると思ってんのか?認めろよ。この世でお前を必要としてるのは俺だけだ。俺がいなきゃ、お前は何にもなれない!感謝しろ!」
蒼生は突如として言語を理解する能力を失ったかのようだった。大家が何を言っているのか、全く頭に入ってこなかった。誰がだって?陽菜が?あの、いつもどこか抜けてる「ひな」が?海外の大学に受かったっていうのか?バラを包むセロファンが、蒼生の浅い息に合わせて、かさりとかすかな音を立てた。静まり返った部屋では、その音だけがやけに耳についた。ふいに、胸の奥に言いようのない居心地の悪さが込み上げた。それはいつの間にか、行き場のない苛立ちに変わっていた。蒼生は皮肉っぽく口元をゆがめ、小さくつぶやいた。「冗談だろ?また何かの悪ふざけじゃないのか」大家は事情がよくわからないまま部屋を確認し終えると、事務的に言った。「あとで彼女の友達が、残りの荷物を取りに来るそうだ。明日からはこの部屋、次の人に貸す予定なので。とくに用がないなら……お先に」蒼生はこわばった顔を上げ、唇をかすかに震わせながら、悔しさを滲ませて問いかけた。「……いつ、出て行ったんですか?」空港まで追いかけたときでさえ、蒼生はまだ、これが陽菜のいつもの悪ふざけだと思っていた。これで最後だ、とさえ思った。もうこれ以上付き合うのはごめんだ。次は本気で怒ってやる。だって、いつもこんなふうに心配させるんだから。でも、「ただのいたずらだ」と信じているくせに、どうして自分はこんなにも焦っているんだろう。蒼生が到着した瞬間、ちょうど陽菜の乗った便が離陸した。心臓の一部を無理やり引き剥がされたような感覚に襲われ、息が詰まった。狂ったように何度も電話をかけた。けれど、何度鳴らしてもつながらない。そのときになって、ようやく蒼生は本当の意味でパニックになった。大学へ駆け戻ると、数時間前に話したばかりの女子の後輩をつかまえた。「坂本陽菜はどこだ?!」あまりの勢いに、後輩はびくっと肩を震わせた。「先輩?坂本さんなら、もう……出国しましたよ。今年、うちの学科で唯一の海外留学生ですから」信じられなかった。ついこの前まで、あいつは自分を責めてばかりいたじゃないか。それなのに、急にこんな……?どうして、自分に相談してくれなかったんだ?その言葉が思わず口をついて出ると、後輩はますます戸惑った顔をした。少し考えてから、おずおずと