父の最期に、あなたはいなかった
父が危篤だと聞き、私・酒井涼子(さかい りょうこ)は急いで300キロ先の実家へ車を飛ばした。途中、サービスエリアで一息ついていた時、何気なく開いたSNSの動画に目が留まった。
投稿者は、ある女性だった。
【免許を取ったばかりで初めての長距離運転。元カレが心配だからって、家に着くまで100キロも後ろを走ってくれてた】
動画では、白いコンパクトカーの後ろを、見慣れた黒いベンツがずっと走っている様子が映っていた。
そして、コメント欄のトップにはこんな書き込みがあり、あからさまな裏垢だった。
【元彼です。変な意味はありません。ただ心配だっただけです】
【彼女、気が弱いくせに無理をするタイプなので、何かあったらと思うと落ち着かなくて】
【深読みはしないでください。彼女をそっとしておいてもらえると助かります】
コメント欄は大盛り上がりだった。
【なんていい男なの!復縁してほしい!】
私は画面に映る黒いベンツを見つめた。そのナンバーは見間違えるはずがなかった。
それは、私の婚約者である杉本悠人(すぎもと ゆうと)の車だった。
今朝、彼は「どうしても手が離せない案件が入った」と言って、私と一緒に実家へ帰る予定をキャンセルした。
私が送った何十件ものメッセージは無視されたままだった。
なのに彼は、初恋の相手を家まで送り届けるために、100キロも付き添って走ったのだ。
その時、スマホが震えた。悠人からのメッセージだった。
【渋滞してないか?気をつけて帰れよ】