子どもは五歳に、禁欲男子の元彼は心を乱す
再婚した旦那は、ガキみたいな人だ。
息子が二歳になるまで、旦那は毎日息子の茶碗を二つとも抱えて手放さなかった。
息子が四歳になると、今度は家の小さな庭で種をまき、水をやることに夢中になった。
そして、息子が五歳になったある日。私・沢村柚葉(さわむら ゆずは)は商談会で、六年間会っていなかった元カレ――あの聖人君子ぶった男と再会した。
彼は昔と変わらず、数珠を指で繰りながら、私を蔑むように見ている。
「柚葉、別れたら二度と会わないんじゃなかったのか?
どうしてそんなに未練がましいんだ。六年も経つのに、まだ俺を追ってこんな所まで来るなんて」
その瞬間、会場にいた誰もが面白い見世物でも見るかのように私に視線を向け、私が厚かましく復縁を迫るのではないかと小声で噂し始めた。
それもそのはず、昔の私はありとあらゆる手を使って、あの浮世離れした岩崎洸希(いわさき こうき)を振り向かせたのだから。
けれど、彼らは知らない。洸希が私とセックスした後、いつも仏間で、義理の妹の写真を見ながら自慰に耽っていたことなど。
それどころか、彼はその義妹のために、私を岩崎家から追い出した。
挙句の果てには、流産したばかりで入院していた私に、義妹のために1000ccもの血を献血するよう強制したのだ。