もし最初の出逢いのままだったら
結婚式は、指輪の交換の場面を迎えた。
けれど、私の婚約者・芹沢湊(せりざわ みなと)は、どうしても「誓います」と言おうとしなかった。
理由は明白だった。一時間前、かつて彼が想いを寄せていた女・北川望結(きたかわ みゆ)が、突然SNSで破局報告を投稿したから。
添えられたのは、都城行きの航空券の画像。到着まであと一時間。
沈黙を破って、兄の東雲悠真(しののめ ゆうま)が突然壇上に立ち、「結婚式を延期します」と出席者に告げた。
その直後、悠真と湊は何の言葉も交わさず、まるで示し合わせたかのように、私をその場に残して去っていった。
私は淡々と後処理を進めた。そしてスマホを開くと、彼女のSNSには一枚の写真。
悠真と湊が、望結を囲むように立ち、すべてを彼女に捧げる姿が映っていた。
私は苦笑しながら、実の両親に電話をかけた。
「……お父さん、お母さん。政略結婚を引き受けるよ。五條家のために」