愛の操り人形にはならない──自らの死体で結婚式に臨んだ私
車椅子を操りながら、私はウィルスが開いてくれた誕生日パーティーの会場に入った。さっきまで賑やかだったホールは、私の登場と共に一瞬の静寂に包まれた。
ここに集まった人々は、それぞれ違う思惑を抱えて来ており、私の誕生日を祝うためではない。
「これがウィルス社長の、車椅子の婚約者ジョウイっていう人か?」
「そうそう。でもウィルス社長の本命はアンナさんだって。さっき隅っこでキスしてたのを見たよ」
彼女たちはワイングラスで口元を隠しながら、遠慮なく噂話をしていた。私が今もまだ歩けず、耳も聞こえないと思っているようだ。
でも、彼女たちは知らない。実は先週、私は聴力を取り戻していたことを。今、この場で交わされる嘲笑や侮辱のすべてが、私の耳にはっきりと届いていた。
そして、私の婚約者であるウィルスも、すぐそばにいるのに、誰一人として止めようとしなかった。
彼はもう忘れてしまったのだろうか。私がこんな姿になったのは、彼を守るためだったということをーー。交通事故の瞬間、私は咄嗟に彼を突き飛ばし、自分が車にひかれてしまったのだ。
あのとき、瀕死の私を救い出したウィルスは、涙ながらに「一生君を守る」と誓った。
でも、たった三年で、その誓いはすっかり消えてしまった。
スマホに通知が届く。
【ジョウイ様、1:1で再現された遺体モデルが完成しました。ご返信いただき次第、仮死サービスを即時開始いたします。五日後、ウィルス様との挙式会場へお届けいたします】
私は迷わず確認のボタンを押した。
ウィルスーー。ご結婚、おめでとう。