風にさらわれた恋
港市では誰もが知っている。
極道の大物・桐生蓮(きりゅう れん)、私を狂おしいほどに愛し、私が姿を消すことを何より恐れていた。
どんな銃弾が飛び交う修羅場にいても、「今どこにいる」「すぐ戻る」と報告してくれるほど、私に安心を与えようとしてくれたのに……
結婚式の前夜、彼は一晩中帰ってこなかった。
そして夜明けに帰ってきたとき、彼は全身に青あざだらけの気を失った女を抱きしめながら、私の前で膝をついた。
「とわちゃん、涼宮遥(すずみや はるか)は俺を助けようとして媚薬を盛られたんだ。俺は、彼女が死ぬのを黙って見ていられない!」
私が許さないと悟ったのか、彼は自分の腕にナイフで六本の傷を刻み、真っ赤な血がシャツを瞬く間に染め上げた。
けれど、結婚式が終わった直後、彼の子分たちの軽口が耳に入った。
「兄貴、婚礼服も脱がないうちにまた涼宮のとこに行く?あの愛人、どんだけ色っぽいんだ?」
蓮は低く、甘く笑った。
「この前は三日三晩、部屋から出られなかった……さて、今回はどうかな?」
雷に打たれたような衝撃。
私の中で、何かが音を立てて崩れた。
「この世界から脱出したい」
思うと、謎のシステムから、冷たい電子音が響いた。
「脱出後、この世界からあなたの存在記録は完全に削除されます。
カウントダウン開始――残り7日」