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第4話

مؤلف: 雪八千
弘樹と綾が交際を公にしたのは、ほんの昨日のこと。ところが、その大切な愛の証であるガラスの靴が今日には消えていた。

確かに大問題だ。だが、まさかその件に自分が巻き込まれるとは、玲が夢にも思わなかった。

足の痛みをこらえながら、玲は雪乃に連れられて階下へ向かう。

リビングでは、庭から戻った綾がソファに座り、失った靴を思って涙ぐんでいた。弘樹はそんな彼女を抱き寄せ、優しく慰めている。けれど、玲の姿を見た途端、その眼差しから一切の温もりが消え去った。

「靴は?」

弘樹は容赦なく問いただす。すでに犯人がわかったかのように、綾の味方となった。

玲は唇をきゅっと結び、綾に目をやる。綾の顔には、はっきりとした悪意が滲んでいた。

「藤原さん、私が盗んだって言いたいんですか?」

「違うって言うの?」

綾は冷たく笑った。

「庭を案内してもらったとき、あんた、ずっと不機嫌そうな顔をしてたでしょ?それで私は靴を脱いで一人で水遊びをしようって思ったの。しばらくして振り返ったら、あんたも靴も消えてた。

ねえ玲さん、身分の低いあんたが、あの靴を見て物珍しいと思ったのはわかるけど、盗むのはさすがにひどいじゃない」

その言葉に合わせて、綾の視線は完全に「泥棒」を見下すものだった。

弘樹はますます険しい顔をしてソファに腰をかけ直す。

あまりに稚拙な罠に、玲は思わずため息をつきそうになった。

それでも反論は必要だと、庭を指さした。

「庭に防犯カメラがあります。確認してみればわかります」

「今日はセキュリティの点検で全部停止中よ」

雪乃が口を挟んだ。

高瀬家の防犯システムは、アップデートのため年に一度リセットされる。偶然にもその日が今日だ。

つまり、玲が自分の潔白を証明できる手段は完全に断たれていたということだ。

しかし、これはただの偶然なのだろうか?

玲は鋭い視線で綾を見て、彼女が庭をやけに熟知していたのを思い出す。

だが、綾は少しも動揺を見せず、なおも強気で迫った。

「防犯カメラのことを持ち出すなんて、最初から止まってるって知ってたからでしょ?これも、疑われないようにするための策略なんじゃないの?

ふん、いくら足掻いても無駄よ。私も、みんなも騙されないから!

玲さん、私と弘樹さんにとって大事な靴を盗んだのは、どうせ私を高瀬家から追い出すためでしょ?だったらもう出ていくわよ!これで満足?」

そう言って立ち上がる綾の手を、弘樹がすかさず掴んだ。

彼は彼女の手を優しく包み込みながらも、冷たい視線を玲へと向ける。

「持ち主のものは持ち主の手に戻るべきだ。それに、綾を追い出すなんて言語道断。玲、靴を出せ。さもないと、父に報告する」

弘樹の父は高瀬家の当主であり、高瀬グループの社長、高瀬茂(たかせ しげる)だ。

物事に厳しい彼に知られれば、玲が一族の仕来りにより、厳しく罰せられるだろう。

雪乃は娘のために反論しようかと一瞬ためらっていたが、夫の名が出た瞬間には顔色を変え、焦ったように玲を見つめた。

しかし玲は何も言わなかった。

彼女はあたりを見渡し、弘樹の背後で勝ち誇った笑みを浮かべる綾を見て悟る――もう何を言っても無駄だと。

ならば、別の方法で立ち向かうしかない。

「……じゃあ警察を呼びましょう」

自分への罵声が飛び交う中、玲はそう言ってスマホを取り出し、ためらいもなく綾へ放り投げた。

騒ぎを望むなら、とことん付き合ってやると、玲は覚悟を決める。

場が一瞬で静まり返る。部屋の隅っこで高みの見物をしていた家政婦たちすら息をのみ、まさか玲が「自首」するような真似をするなんて、思いもよらなかった様子だ。

勝者気取りの綾だったが、スマホに足を当てられたうえ、玲の言葉に動揺し、足元が覚束なくなる。

弘樹が彼女を支えたが、足が傷つけられたと思い、眉をひそめて玲を睨む。

「玲、ふざけるのも大概にしろ!」

「ふざけてないわ。最も公平な解決方法を提案しただけよ」

玲は涼しい顔のまま、さらりと言い返した。

「私がお二人の『愛の証』を盗んだって言うなら、警察に調べてもらえばいいじゃない」

「通報したらどうなるか、考えたことがあるのか?」

弘樹の声は低く沈み、呆れと苛立ちが混じっていた。

「警察を呼べば高瀬家の名に傷がつく。会社にだって悪影響が出る。世間は騒ぎ立て、炎上する可能性も高いんだ。そんな責任、お前に取れるのか?」

「もちろん取れないわよ。けど、そもそも私が責任を取る必要なんてある?」

玲は唇の端を冷たく吊り上げ、一語一語を突き刺すように言った。

「騒ぎを起こしたのは藤原さんでしょう?立場も名声もある方なんだから、責任はご自身で取ればいいわ。それにスマホはもう渡してある。通報したければ、ご自由にどうぞ。

……それとも、怖くて通報できないの?」

本当に大切なものを失くしたなら、ためらわず警察を呼ぶはずだ。

だが、スマホを手にした綾は通報どころか、押すべきボタンに指を伸ばすことすらできず、かえって動揺しているように見えた。

その姿を目にして、周囲の人々の胸に小さな疑念が芽生える。綾の顔からは、みるみる血の気が引いていった。

弘樹の表情は険しさを増し、ついに一歩踏み出す。

「玲、もういい加減にしろ!」

だが玲は引かない。むしろ静かな強さを宿した瞳で、真っ直ぐに弘樹を見つめ返した。

「いいえ、まだ終わってないわ」

かつての卑屈さはなく、毅然とした声がその場に響いた。

「弘樹さん、昨日、私は選んでほしいって言ったわよね。だから今、あなたの答えを聞かせて。

今回の件は、私を陥れるために藤原さんが仕組んだ罠。

あなたは……私を信じてくれるの?」
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