ログイン宴もたけなわのうちにお開きとなり、僕は一度自分の小屋に戻る。
翌朝、日課にしていた午前中のルーティンワークをお休みにして、昨日持って行かなかったいくつかの商材を抱えてキャラバンの元へ行く。「来たな」
「これも」とハムや干物を押し売りしつつ、ざっと店開きしてもらった商品を眺める。
さて、どれくらい必要なものが揃えられるかな? 商隊長さんが提示してくれた今回の買取金額と昨日査定してもらった金額では買えるものなど高が知れている。 まずは金属器。 加工に技術が必要なのこぎりは、村の再建に必要不可欠だ。 あんなボロ小屋程度を廃材リサイクルで作ったにも関わらず完成までに一ヶ月かけた事を考えればこれだけは買わなきゃならない。「種も頼むぞ」
ルダーが後ろから声をかけてきた。
「せっかくの畑を荒れ果てさせるのはもったいない」
そういえば「前世も百姓だった」って言ってたな。
「大変だが、鋤鍬は最悪木製でいい」
事件は起きた。 そう、バカが三人テリトリーに侵入したんだ。 テリトリーを侵した奴が三人いると報告を受けた僕は、雑木林の巡回をしていたメンバーだけでなく、ルンカー職人と炭焼き職人も村へ引き揚げさせた。 直後に「主の咆哮」が森から響く。 鬱蒼と繁る森から聞こえてくるいつもの低く長いものじゃない。 村の中まで振動する激烈な音だ。 なぜ、僕が主の咆哮と判るかって? そりゃ、聞いたことがあるからだよ。 町人が何事かと中央広場に集まってくる。「お館様」 誰かが僕を見つけたことで町人の視線が僕に集まる。「なにがあったんですか?」「誰かが主のテリトリーを侵したらしい」 サビーからの報告を受けている僕はその誰かを知っているわけだけど、町人たちは知らない。 すぐさま安否確認が始まった。 増えたといっても百人足らずの小さな町だ。 あっという間に誰がいないか判明する。 バンブル、ビービー、ガルムの三人だ。 三人とも反お館派で、町の不良グループでもある。 三人とも一応成人してるけどね。 イゼルナが過呼吸で倒れる。 ガルムと付き合っているって噂だった。 ガルムといえば、ドブルの弟だったな。 「年をとってからの子だったこともあって、親父のデジンが猫っ可愛がりしている」と、よくドブルが愚痴ってた。 そういうドブルもたいがい甘やかしていたからこういう事態になったとも言える。「助けに行こう!」 ドブルがいうと、三人の親族を中心に賛同の声が上がる。「お館様」 町人の視線が改めて僕に注がれる。 そんな目で見てもダメだよ。「無茶だよ。これ以上被害を増やすわけにはいかない」「まだ死んだと決まったわけじゃない!」 確かに村の過去の記録には何人かの生還事例があるけれど、生還率は数%。 それも五体満足で戻ってきたものはいない。 僕の記憶にある三件
新参者が増えるとよく起こる習慣や物の考え方の違いによる軋轢もなかなか無視できない。 こう言っちゃなんだけど、「村人」は「村人」なのよね。 前世の都会人みたいに適度に隣人を無視するってのがなかなかできない。 ついついお節介を焼いたり、気に入らないことに口出しするとかでいらないいざこざが起きる。 そのたんびに僕が仲裁するんだけど、必ずしも双方納得ずくって裁可が下せるわけもなく、不満がたまって矛先が僕のところへ向くことが避けられない。 着の身着のままで逃げ込んでくる人たちもいるんで、物資不足も心配だ。 これから男爵相手に一丁事を構えるって言う準備に結構資源を割いてたりするんで、なおさらだ。 村の自給自足の根幹である畑仕事もしなきゃいけないし、外貨獲得のための特産品生産もやめるわけにいかない。 本格的な戦闘で男爵軍と渡り合うための訓練も生き残り戦略には欠かせない。 そして、最大の問題が「主」の存在だった。 新しくきた人たちには、雑木林の奥の森が「主」のテリトリーであるってことをいの一番に話して聞かせている。 僕自身で。 元々の村の唯一の生き残りである僕が、実体験も交えて口を酸っぱくして注意しているのに、不用意にテリトリーに入ろうとする奴が後をたたない。 主に十代の思慮の足りない奴らが度胸試しかなんかのつもりで「主」のテリトリーを侵そうとする。 サビーたちに雑木林の巡回警備をしてもらっているから事故は起きてないけど、困るんだよ。 本当に。 やばいんだよ。 とにかく。 見つけるたびに緊急集会を開いて「主」とテリトリーについて話してるのにさ。 いい加減頭にきたんで 「次にテリトリーを侵そうとする奴は無視してくれ」 とサビーに頼んだのが、キャラバンが来てカシオペア戦隊の五人が加わった翌日。 事件はその十日後に起きた。
前世でなにをしてきた人かは知らないけれど、このあたりの用意周到さは壮年期に太平洋戦争を経験した凄みとでも言うんかね? そりゃあ情報と物資の重要性をよう知ってるはずだわ。 頭でっかちな僕とは根っこが違う。「それにしたって賑わってるなぁ。もうちょっとした町だな」 うん、今日の五人を入れて人口九十人に届くよ。 野盗討伐戦後、村の町化計画を策定した際に人口規模百二十人と提示した。 目標まであと三十人だ。 当初計画では二ケ年かけて到達する計画だったのに秋までには達成しそうな勢いである。 急速な発展はいくつかの問題を発生していて、とても頭を悩ませている。 シ○シティ並みに次から次へとよく問題が発生するよ。 まず、住宅問題。 当初、簡易宿泊所で家ができるまで生活してもらうという予定だった。 貨幣経済が割とすんなり受け入れられたのをみて、一軒家以外に長屋も作る計画に変更した。 賃貸住宅を作ることで建設費と施工日数を減らすことに成功してはいるんだけど、なにせ人口流入が想定以上なので建設が追いつかず、バラック生活・キャンプ生活の人も出ている始末。 バラックに居ついてスラム化されると問題なんで早急に解決したいんだけど、リソース全部ぶっこむわけにもいかずにいる。 同じく人口増加に起因する食料問題。 現在は配給制だけど、本来男爵との戦のために備蓄に回すべき分を吐き出して対応しなくちゃいけない状況だ。 北に拡げている耕作地は、種蒔きできたのが従来の畑の五分の一程度。 百五十人規模にでもなったら配給を絞らなきゃならない事態になりかねない。 せっかく貨幣経済が回り始めたのに村内主力産業である外食産業がポシャっちゃう。
盛夏、キャラバンがまたひと組の父子家庭の家族を連れて村に戻ってきた。「そこで一緒になってな」 とジョーは言っていたが、多分表向きの話だ。 だってどうみても「できるっ!」って家族なんだもん。 親父はいかにも歴戦の戦士だし、三人の息子も畑仕事の体つきじゃない。 唯一の娘だって平凡に暮らしてきたらできっこない鋭い目つきで周囲を伺っている。 そもそもみんな似ていない。「いやいや、その設定はさすがに無理があるだろ」 と言うツッコミにニタニタと笑うだけなのが腹がたつ。「年の順にカイジョー、シメイ、オオダイ、ペギー、アーシカだ」 へー……頭文字がカシオペアかぁ(棒)「聞いたぞ。ついに男爵に目をつけられたんだって」「そうなんだ、参ったよ。オルバック様のお世継ぎ様、とか言うのがやってきたと思ったら『村が復興したなら税を払え。納税額は特別に前回並みにしといてやる。ありがたく思え』だってさ」「あー……そりゃまた残念な奴が当たったな」「まぁ、残念な奴のおかげで村の中に踏み込まれなかったから『物怪の幸い』だったんだけど」「年寄り臭い言い回しだな、前世はいくつまで生きてたんだよ」「四十の半ばだよ。ばあちゃん子だったんで言葉や趣味が多少、年寄り臭いのかもしれないけどさ。そっちは?」「天寿まっとう、七十二歳の大往生だ。明治大正昭和と生きてきたし、前世に思い残すことはない」 え? 明治大正!?「え? ジョーって僕のばあちゃん世代なの?」「なに!? そんなに世代が違うのか?」「僕は団塊ジュニア世代。ルダーは戦中派だって」「団塊ジュニア……それが四十半ばってことは未来人だな。まぁいいや前世の話はルダーも呼んで今度じっくり思い出話をするとして、男爵と事を構えるんなら必要だと思ってな。本物の戦士を連れてきてやったわけだ」
弓が使えると言えるのはサビーたち主要戦力の他は四、五人。 ガーブラは白兵戦の中心に置きたいし、ザイーダにはオギンと同様に僕のそばで伝令や諜報に回したい。 塀に囲まれた村にこもっての戦闘だとしても弓の撃ち合いだけで勝負が決まるわけがないから、サビーにもイラードにも白兵戦に参加してもらいたいところだ。 でも、そんなことしたら今度は射手の絶対数が足りなくなる。 命中精度も心許ないのに数撃ちができないんじゃ意味がない。 むーん……。 所詮農民兵団ってことだよねぇ。「女性陣に弓のできるのはいないの?」「女を戦さに駆り出すんですか?」 む〜ん……まだ文化レベルがその位置なのだね。 確かに白兵戦で力勝負とかなったら圧倒的不利だろうけどさ、弓ならいいんじゃないかなぁ? 強弓が引けなくてもいいんだよ。 命中精度も並なら十分だ。「声をかけるくらいいいだろ?」「お館様がそうすると言うなら従いますがね」 不服そうだな。 オギンだってザイーダだって女だろうに。 話題を変えるか。「防具の方はどうなってる?」 この国の基本防具は鎖帷子だ。 そんなもの作る技術はない。 だから革の鎧を作った。 膠を溶かしたお湯に浸した革を重ねて叩いて接着し鎧の形に成形して乾かすとあら不思議、胴鎧の完成だ。 ないよりまし、ないよりまし。「なかなか大変な作業とかで、秋までに十領揃えられるかどうかと言うことです」 同じ作り方で、木の板に革を張った盾も作らせているし、人数分なんてとてもじゃないけど揃えられないか。「その十領も革の確保ができてないんですけどね」 なんと!? 毛皮不足か!
それだけじゃない。 戦が続けば戦闘員が不足する。 最初は家の子郎等だけで戦っていた武士も農民兵を徴収しだす。 いわゆる足軽だ。 ちなみに、こっからは歴史オタク的うんちくなんだけど、『足軽』の記述は平家物語にすでにあるんだ。 当時の足軽は戦闘員ではなく後方支援部隊として輜重や陣の設営を担当していたらしい。 源平合戦の頃は「やあやあ我こそは……」でお馴染みの一騎打ちの時代だったから通常は直接戦闘に参加しなかったんだろう。 それが『悪党』の戦力となり、集団戦の時代の重要戦力として組み込まれる。 まさに「戦さは兵力ですな」だ。 もちろんこれは日本の事例であって、異世界の話だ。 けど、人の歴史なんて似たようなもんだろ。 今は志願兵で揃えられている各領主の戦力もいずれ徴兵で揃えられることになる。 ──というのが僕の見立てなんたけど、こんな前世知識をもとにした分析で村人を説得できるわけもない。 ないんだけど僕には、もう一つの知見がある。 オギンやジョーたちが持ち込む情報だ。 今年になって村に来た人たちの体験も侮れないよ。 そう言った様々な情報を出し、出させて自分たちが置かれている状況を理解してもらう。 議論は深夜まで及んだ。 こういう危機を煽るやり方は、さじ加減を間違えると暴発するんでできれば使いたくないんだけど、効果的なのも事実なのよね。 ということで、村は秋の徴収まで面従腹背を通し領主に対して叛旗を翻すことになった。「去年の野盗との戦いは村の男のほとんどが戦闘に参加したわけだけど、今回はどうしようね」 と、サビーに訊ねると「弓師と矢師は外してください」 と、明確だ。「他の職人も大事ですが、武器の調達・メンテナンスは最重要です」「それをいうなら、ジャリもじゃないのか?」「殴ればある程度ダメージを与えられる剣と違って、飛び道具は命中精度に響きます。それに、率直に言ってジャリ程度の鍛治師ならいくらでも調達できます」
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも







