LOGIN7度目の婚約パーティーで、沢田智哉(さわだ ともや)は、また私を残して昔からの女友達のもとへ向かおうとしていた。 付き合って10年。これは、私たちにとって7度目の婚約パーティーだった。 そのたびに、その女友達には決まって何かが起きた。 今回だけは、思わず智哉を引き止めた。 「あとは指輪を交換するだけでしょう。そんなに時間はかからない。少し熱があるだけなら、すぐに行かなくても大丈夫じゃない?」 それを聞いた智哉は、途端に怒り出した。 「玲奈、いい加減にしてくれ。美羽ちゃんが昔から体が弱いのは、分かってるだろ!それに、俺たちはもう10年も付き合ってるんだ。婚約パーティーなんて、一度くらい中止になっても別にいいだろ」 その場に私を残し、智哉は会場を出ていった。 けれど今回は、もう本当に疲れた。
View More和真はごく自然に腕を絡めてきた。私は一瞬戸惑い、反射的に離れようとしたが、もう智哉の恋人ではない。そう思うと、断る口実を考えるのをやめた。会社を出て間もなく、背後から聞き慣れた声がした。「玲奈!だから俺と別れたかったのか?ずっと篠宮のことが好きだったんだろ!」智哉の声を聞いただけで、そのしつこさにうんざりした。私が口を開くより先に、和真が言い返した。「沢田、何年ぶりだよ。相変わらずお坊ちゃん気取りだな。美羽と曖昧な関係を続けてたことなんて、みんな知ってる。自分のことを棚に上げて、玲奈を責めるなよ」誰かが自分のために言い返してくれるのは、こんな気持ちなのか。美羽がいつも私の前で勝ち誇っていた理由が、今なら少し分かる。智哉を相手にせず、和真とそのまま車に乗り込んだ。智哉は後ろで地団駄を踏んでいる。「玲奈、今のは浮気だぞ。別れるなんて認めてない!」「運転手さん、出してください」もう智哉と言い争う気にもなれず、そのまま車を出してもらった。あの日の食事のあと、和真は海外へ戻ったが、私たちは頻繁に連絡を取り合うようになった。日々の出来事をよく話すようになった。和真は、智哉と過ごした10年間にはなかった温かさをくれた。お互いに大切にし合ってこそ、本当の恋なのだと初めて知った。その間も、智哉からは何度も、よりを戻したいというメッセージが届いた。美羽とは完全に縁を切ったと書かれていた。婚約パーティーの準備も万全で、あとは私が来るだけだとも言っていた。私は、和真に自分と同じ苦しみを味わわせたくなかった。何の未練もなく、智哉の連絡先をブロックした。初めは新しい恋を受け入れる気になれなかったが、和真は私を急かさず、根気よく向き合ってくれた。やがて私も、和真と付き合ってみることにした。半年後、うちの会社は無事に上場した。海外事業が本格化したのを機に、私は海外へ移ることにした。それなら、和真と過ごす時間も増やせる。付き合い始めてから結婚するまで、わずか1年だった。今、私は妊娠3か月だ。両親にも支えてもらいながら安心して出産を迎えるため、二人で帰国することにした。実家に戻ってから、智哉と美羽がその後どうなったのか、母から聞いた。私が海外で暮らし始めたあと、携帯番号も変えた。智哉は両親のところへ行き
「それから、10年も付き合ったんだから、最後にもう一つプレゼントをあげる。これで、恩人でもない相手に馬鹿みたいな恩返しを続けずに済むでしょう」私が言い終わるのと同時に、駐車場に大勢の警備員が集まってきた。大柄な警備員たちは、暴れる美羽を軽々と抱え上げた。「玲奈、何するの!私を殺す気?」美羽は甲高い声でわめき、臆病なところをさらけ出した。智哉まで、そんな美羽を嫌そうに見ている。ほどなく屋外プールに着くと、警備員たちは「せーの」と声をそろえ、そのまま美羽をプールへ放り込んだ。「私、泳げないの!玲奈、何してるの?早く誰か呼んで助けてよ!」美羽は水中でもがきながら、途切れ途切れに助けを求めた。「玲奈、どうして美羽をプールに落としたんだ。熱が下がったばかりなんだぞ」「昔、智哉を助けたのは美羽なんでしょう?」その一言で、智哉はその場に立ち尽くし、しばらく何も言わなかった。そうだ。あのとき池から智哉を助けた人が、泳げないはずはない。当時、あの場にいたのは、美羽のほかには私だけだった。いくら智哉が鈍くても、自分がこれまでずっと、恩返しをする相手を間違えていたことには気づいたはずだ。しかも、目の前で水に落ちた美羽は、その勘違いにつけ込み、何年も智哉を利用してきた。私が背を向けると、智哉はなりふり構わず私の手をつかんだ。「どうして助けたのが玲奈だって教えてくれなかったんだ。言ってくれてたら、俺たちはとっくに婚約してた。こんなことにはならなかったのに……」智哉の声は次第に小さくなった。自分でも、私が何度も説明したことを思い出したのだろう。それでも毎回、美羽を信じることを選んだのは智哉だ。「悪かった。俺が間違ってた。もう一度だけ、チャンスをくれないか?玲奈はずっと、俺との子どもが欲しいって言ってただろ。すぐに結婚しよう。きっとすぐ、かわいい赤ちゃんもできる」その謝罪はあまりにも遅かった。今さら、たったこれだけの言葉で心が揺れるはずもない。私は10年もの間、同じ間違いを繰り返してきた。今度こそ、何があっても抜け出してみせる。警備員に智哉を止めてもらい、私は一度も振り返らずにその場を離れた。背後からは、智哉が泣きながら何度も私の名を呼ぶ声が聞こえた。もう二度と、情に流されるつもりはない。智哉と美羽が
「これ以上続けるなら、誰か呼んで追い出してもらうから」私の気持ちは少しも揺れなかった。「いつまで怒ってるんだ?わざわざ会社まで来て、こうして玲奈の機嫌を取ってるだろ。まだ美羽のことで怒ってるのか?ただの友達だって、何度言えば分かるんだ。美羽のことを気にかけてるのも、昔、命を助けてもらったからだ」「智哉、もうそんな話はどうでもいい。智哉のことにも興味はない。これから誰と一緒にいようが、私には関係ない。もう構わないで」これ以上同じ部屋にいるのも嫌だったし、社員たちに私生活まで詮索されたくもなかった。私はオフィスを出て、地下駐車場へ向かった。後を追ってきた智哉は、また今にも泣き出しそうな顔を作っていたが、何か言い出すより先に、美羽が車の陰から飛び出してきた。「智哉、どうして私を一人で病院に置いてきたの?」今度は、智哉も美羽への苛立ちを隠さなかった。ここへ来る前、智哉は美羽に、今の沢田家には金が必要だから私との関係を壊すわけにはいかないと、何度も言い聞かせていた。金が尽きれば、今の暮らしもできなくなるとも話していた。美羽は人一倍不安が強く、智哉と私がよりを戻す可能性など、少しも残すつもりはない。美羽は、智哉の言葉をすべて言い訳だと思っている。何としても沢田家との縁を手放すつもりもない。昔ほどではなくても、沢田家はまだ普通の家より裕福だ。「美羽、病院で待ってろって言っただろ。どうしてまたついてきたんだ」「智哉に捨てられるんじゃないかって、怖かったの」美羽は唇を尖らせ、甘えるような口調で言った。聞いているだけで吐き気がした。「俺はずっと、美羽をただの友達としか思ってない。本当に愛してるのは玲奈だ。必ず玲奈と婚約する」「ただの友達なわけないでしょう?それなら、どうしていつも玲奈を置いてまで、私と一緒にいてくれたの?智哉は私のことが好きなんでしょう?」美羽は焦り始めた。いつものように同情を引こうとしても、今回は通じない。「玲奈に何か言われたの?私たちが仲いいから嫉妬して、引き離そうとしてるのよ」「俺は一度も美羽を好きになったことなんてない!今まで面倒を見てきたのは、昔、命を助けてもらったからだ!」美羽はもう智哉の言葉など耳に入らず、今は私だけを目の敵にしている。突然、私に飛びかかってきた。「どうして
もともと、毎日一緒に登下校していたのは、私と智哉だけだった。ある日突然、智哉が学校の裏手にある池で釣りをしたいと言い出した。もちろん、私は反対した。「帰るのが遅くなったら、お父さんとお母さんに怒られるよ」智哉は口を尖らせ、甘えるように頼んだ。「今日だけでいいから。お願い」空は次第に暗くなり、黒い雲がこちらへ迫っていた。智哉がどれだけ甘えても、私はうんと言わなかった。子どもの頃の智哉は素直で、いつも私の言うことを聞いてくれた。智哉が私と帰ろうとしたとき、美羽が現れた。「釣りに行きたいの?私が一緒に行ってあげる」ただでさえ釣りに行きたがっていた智哉は、美羽に背中を押され、すっかりその気になった。智哉は私に向かって何度か目をぱちぱちさせてみせると、一度しか会ったことのない美羽についていってしまった。後ろから何度呼んでも、智哉は振り向かなかった。放っておくわけにもいかず、私は歯を食いしばって後を追った。初めは小雨だった。智哉があまりに楽しそうで、私も邪魔をしたくなかった。雨脚が強まり、私は何度も帰ろうと言った。それでも智哉は釣りに夢中で、美羽という新しい友達もでき、その場から動こうとしなかった。腹を立てて帰ろうと背を向けた瞬間、後ろから智哉の悲鳴が聞こえた。水辺のぬかるみに足を取られ、そのまま池へ落ちたのだ。美羽はすっかり怯え、その場に立ち尽くしていた。智哉が泳げないと知っていた私は、すぐに上着を脱ぎ、池へ飛び込んだ。どうにか引き上げたときには、智哉はすでに意識を失っていた。以前、かかりつけの先生から教わった応急処置を思い出し、智哉に心肺蘇生を試みた。智哉が水を吐き出したのを確認すると、警備員に救急車を呼んでもらうため、私は学校へ駆け戻った。けれど、どうやら運は私に味方してくれなかったらしい。戻ってみると、智哉は美羽に抱きついて泣きじゃくり、「ありがとう」と何度も口にしていた。智哉が無事だと分かり、ようやく胸をなで下ろした。子どもの頃の私は口下手で、自分が智哉を助けたのだとは言い出せなかった。そのせいで、あとになって何度説明しても、美羽の話を信じ切った智哉は、私の言葉に一度も耳を貸さなかった。秘書からの電話で、ようやく我に返った。2日前に頼んでいた調査が終わったという。
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