เข้าสู่ระบบ「懐かしいわ……。でも、どうして百合がこんな写真を?」「シグネットリングと、妻夫木財閥の紋章が同じだったから色々調べたの。ねぇ、母さん。熊谷家と何があったの? 秋明さんは、私が相続するはずの遺産は、熊谷家にあるって言ってたわ」「流石は律子さんの息子さんね。そこまで分かってたなんて」 藤子は力なく笑った。懐古と諦めが入り混じった笑みに、胸が痛む。「秋明さんのこと、知ってたの?」「知ってたというより、なんとなくそんな気がしたの。目元が律子さんにそっくりだったから」 藤子は1枚の写真を手に取る。それは藤子と律子が並んで写っている写真だ。「律子さんとは、仲が良かったの。同じ時期に妊娠してね。それで、お互いを励ましたりしてたわ。私達の夫は仲が悪かったし、律子さん達が引っ越してしまったから、それっきりなんだけどね」「そう……。ねぇ、どうしてアレグリアは潰れたの?」「騙されたのよ……。あぁ、本当に情けないわ……」 藤子は悔しそうに拳を握る。彼女は怒りで震えていた。「私は箱入り娘でね。働いた経験なんてないし、経営なんてさっぱりだったの。夫が亡くなった喪失感もあって、あの頃の私は冷静でいられなかった……。アレグリアの他の従業員達は、誰も社長をやりたがらなかったし、私にもできない。途方に暮れていた私に声をかけたのが、矢絃さんのお父様……」「もしかして、あの契約って……」「えぇ、熊谷学さんと契約したの。最初はね、優秀な経営者を貸してもらう代わりに、母さんが時給1200円で、使用人として働くっていう契約だったの。でも、私が金庫の番号を知らないと知ると、契約内容を書き換えて、時給を下げたの。それからどんどん内容を変えられて、百合まで巻き込むことになってしまって……。本当に、情けない母親でごめんね」「情けないなんて思ってないわ。一応確認だけど、金庫
迷った挙げ句、百合は自宅に帰ることにした。秋明の書斎に入り、鍵付きの引き出しを開ける。引き出しの中は以前と同じだ。 百合は椅子に座ると、封筒を手に取り、アレグリアの文字を指先でなぞる。アレグリアがどんな宝石店だったのかは、百合は知らない。存在自体を知ったのも、最近だ。「ここに、手がかりが……」 ずっと見たいと思っていたのに、真実が近づいていると思うと、言いようのない恐怖に手が止まってしまう。「もう、情けないわね、私ったら。知るために探偵を雇ったりしてたのに。はっきりさせないと意味ないでしょ」 自分にそう言い聞かせ、封筒を開けた。中には数枚の写真と、書類が入っている。「これは……」 写真は昔のもので、若い宝生夫妻が、赤ん坊を抱っこして店の前で笑っている。看板には、アレグリアと書かれていた。 他の写真には、幼稚園児くらいの百合や、店内が写っている。最後の1枚に、百合は釘付けになった。「もしかして、これって……!」 写っていたのは、ひとつのネックレス。台座にはドーム状の赤い宝石がはめ込まれており、宝石には薔薇が彫刻されている。「これが、ローズジュエリー……」 古い写真越しでも、その美しさや繊細さが伝わる。実物はもっと美しいだろう。矢絃や秋明が欲しがるのもうなずける。この技術を手に入れたら、きっと売れる。 しばらく写真を眺めた後、書類に目を通す。書類には、アレグリアの売上が書かれていた。どの数字も好調に見える。こうして見ると、アレグリアが愛されていたと分かるが、潰れた理由は分からない。「よし、行こう……!」 百合は書類や写真を封筒に戻すと、クリアファイルに入れ、大きめのバッグにしまい、車を走らせた。 ついたのは藤子の家。どうやら収穫を終えたらしく、畑はがらんとしていた。 インターホンを押すと、藤子が眠そうに目をこすりながら出てきた。「あら百合!
翌日、百合は秋明の元へ見舞いに行った。意識は戻っていたが、顔色はイマイチ良くない。「秋明さん……。よかった、意識が戻って」「百合、来たのか」「当たり前でしょ、私はあなたに助けられたんだから。秋明さんには謝らないといけないわね。私がもっと、秋明さんの話を聞こうとしてれば、こんなことにならなかったかもしれないのに……。 自分が何者か分からなくなって、正気じゃなかったわ。ごめんなさい」「お前が謝ることはない。俺も、隠し事をし過ぎた。こういうことに巻き込みたくなかったから、お前には黙ってたんだが、もう隠す必要もないな」「聞かせてくれるの?」「あぁ、分かっていることだけな。俺達の祖父母は、同じ志を持ち、同盟を組んだんだ。まぁ、父親同士は不仲で、交流が途絶えたがな」「だったら、あの写真はなんなの?」「あの写真? あぁ、引き出しに入ってた写真のことか。どうやら母親同士は仲が良かったようだ。ただ、父親同士が不仲なのと、うちが引っ越して海外に行ったことで、交流はなくなったらしいがな」「そうだったの……」「そのへんの詳細は俺も知らない。父はとっくに他界したし、母は喋りたがらないんでな」「そう……。ねぇ、アレグリアについて教えて」 アレグリアの名前を出した途端、秋明は険しい顔をした。「アレグリアの件は、まだ調査中だ。分かっているのは、熊谷家が絡んでることと、金庫が熊谷家にあることくらいだ」「それなら、どうして矢絃さんは、一緒にいる時に何も聞いてこなかったのかしら?」 そこがずっと気になっていた。百合を誘拐しようとした際、矢絃は金庫は自分が持っていると言っていた。それなら、婚約時に百合か藤子に聞けばいい。特に藤子は契約で使用人をしていたのだから、聞くには持って来いだろう。「百合の母親と契約をしたのは、おそらく矢絃の父親だ。だから矢絃は、お前達親子の価値に気づかなかった。アイツが遺産について
程なくして救急車が2台到着し、ふたりを運ぶ。百合は秋明がいる救急車に乗り、秋明の手を握った。「お願い、助かって……!」 病院に着くと、紫苑は既に到着していた。「奥様、大変でしたね。一緒に待ちましょう」「紫苑……。どうしよう、私のせいで……」「奥様のせいでは……」「私のせいよ! 私がもっと、秋明さんと向き合って話をしていれば……。秋明さんは、話そうとしてくれたのに、私がかっとなって家を出て、それで誘拐なんかされて……。商談を駄目にしちゃったし、あんな大怪我まで……」 顔を覆い、うつむく百合の肩に、紫苑は手を置いた。「奥様、どうかこれ以上、ご自分を責めないでください。分かりにくいでしょうが、秋明様は何よりも奥様を大事にしています。あの方は奥様を泣かせるために助けたのではありません。それに、秋明様も悪いんです」「え?」「奥様にも私にも、いくつもの隠し事をしているんですから。疑われて当然ですよ。大事にしているのなら、もっと打ち明けてくれてもいいのに……」 百合は紫苑の言うことに同調し、うなずいた。紫苑は今まで、秋明は百合を大事にしていると言っているが、隠し事があまりにも多すぎて、本心が見えない。そのせいで、本当に大事にされているとは思えなかった。「奥様。秋明様はとてもタフな方です。子供の頃だって、落馬しても擦り傷だけですんだような人ですから。だから、今回もきっと大丈夫ですよ」「そうね……。ありがとう、紫苑」 百合は秋明が生還することを祈りながら、手術が終わるのを待ち続けた。 2時間後、手術中のランプが消え、医師が出てくる。「手術は無事成功しました。しばらくは絶対安静が必要です」「ありがとうございます……! 紫苑&hellip
服に手をかけられるのと同時に、銃声がした。「あ?」 正樹は何事かと顔を上げる。(きっとボディガードね) こんな状態だというのに、百合は冷静だった。百合は秋明の命令でGPSを身に着けている。それもひとつだけではない。バッグの底、イヤリング。そしてスマホ。 おそらく、百合が気づいてないだけで、他にもあるだろう。バッグとスマホは車の中だが、イヤリングはつけっぱなしだ。 足音がこちらに近づき、正樹は百合を抱き起こす。ドアが開くのと同時に、銃声がした。大きな音に、百合は固く目を閉じる。「随分ふざけたことをしてくれたな、中務正樹」(嘘……!) 聞き馴染みのある声に目を開けると、秋明が銃を構えて立っていた。「どうやってここに……」 正樹は目を見開き、秋明を凝視する。「そんなことはどうでもいい。妻を返してもらおうか」 秋明が来たことに安堵していると、硬く冷たいものがこめかみに押し付けられる。「物騒なおもちゃを持ってるのは、自分だけや思うたら大間違いや。奥さんが大事なら、それ捨ててくれへん?」 秋明は銃を、正樹の足元めがけて放り投げる。(そんな……) 簡単に武器を手放した秋明を見て、百合は絶望した。これでは秋明が殺されてしまう。おそらく百合も、無事ではすまない。「両手を上げてそこに座り」 秋明は両手をあげ、ゆっくり膝をつく。正樹は秋明に銃口を向ける。正樹が引き金を引くのとほぼ同時に秋明が動き、後ろに隠していた銃で正樹の太ももを撃つ。 正樹が悲鳴を上げて倒れると、百合は秋明に駆け寄った。「秋明さん!」 命の危険から解放された百合が秋明に抱きつくと、うめき声をあげる。「秋明さん? やだ!」 秋明の脇腹から血が出ていた。百合は慌てて秋明のポケットからスマホを出し、救急車を呼ぼうとするも、秋明に手を掴まれる。「紫苑に、連絡してくれ……」 こんな時に何を
「俺の狙いは、妻夫木財閥の失墜や」「なんですって?」「今日、妻夫木サンは大事な商談があるやろ? 妻夫木サンには既に、アンタを誘拐したから来いってメールしといたわ」 今日、秋明には大事な商談があると、百合も知っていた。5億の商談を投げて、秋明が来るとは思えない。来るとしても、秋明ではなく別人だろう。「あの人、お金と人脈は腐る程あるのよ? ボディガードだって雇ってるような人だもの。そういう人達に任せて、おしまいじゃない?」「流石に居場所までは教えてへんよ。指定した場所についたら、場所と本人が分かる写真を送るように伝えてある。他の誰かが来たら、あんたを殺すって言ってある」(はぁ、この男も遺産目当てなのかしら?) 絶望を通り越して、ヤケになった。誰もが百合が相続する遺産目当てで、百合自身を見てる人など、ひとりもいない。実体がないに等しい遺産にも、それに群がる男にも、辟易としていた。「妻夫木秋明は、何よりも利益を大事にする男や。きっと来ぉへん。そしたら、妻を見殺しにした男としてマスコミに売る」「そうね、来ないと思うわ。さっさとマスコミにでも売ったら」 百合がそっけなく言うと、正樹は一瞬目を丸くし、声を上げて笑った。「はは、契約で結婚しただけあるわ。信頼してないんやねぇ」「してるわけないでしょ。それに私、契約を解除したいの」「それなら、俺の妻にでもならへん? かわいがったるよ」「お断り。どうせあんたも、遺産目当てなんでしょ」「遺産? よぉ分からんけど、遺産なんかどうでもええ。俺はただ、妻夫木財閥が目障りなだけ」「そう」「そっけないなぁ。自分の命もかかっとるかもしれへんのに」「あの人は王子でも騎士でもないし、私だって、お姫様じゃない。『あの人はきっと来るわ!』なんて、馬鹿げたこと言うとでも?」「あっはは! あんた、思ってたよりもずっとおもろいわ。なぁ、本気で俺のモンにならへん? どんな契約か教えてくれたら、契約解除手伝うで?」「何度も言わせないで。
晩餐会当日、高級ホテルにあるきらびやかな会場には多くのセレブがいる。百合は暗い気持ちで壁の花を決め込む。 成功したデザイナーとはいえ、セレブの仲間入りを果たしたわけではない。矢絃がいなければ、このような場にはいられないだろう。(こんなところ、願い下げよ) 百合は矢絃から送られてきた日程を伝えるメールを思い出し、心の中で吐き捨てる。メールには日時と会場と、「本来はお前ごときが参加していい場ではない。晩餐会に出られること、感謝するんだな」という一文が添えてあった。 あれから矢絃はマキの家にでも転がり込んでいるのか、帰ってこず、母の藤子と数人の使用人と奇妙な同居生活をしていた。 藤子に
ビルから出ると、リムジンが停まっていた。ボディガードのひとりがドアを開ける。秋明は何食わぬ顔でリムジンに乗ると、困惑しながら立ったままの百合に目を向ける。「何ぼさっと突っ立ってるんだ。はやく乗れ」「え、えぇ……」 おずおずとリムジンに乗り、百合は目を見開く。L字型をした革張りの座席があり、その向かいには小さなバーカウンターを想起させるテーブルがある。小型の冷蔵庫と食器棚もあり、食器棚の中には高そうなグラスが並んでいた。「お前は俺の隣に座るんだ」「分かったわ」 少し距離を作って座ると、秋明はあからさまに不機嫌になる。どうしたらいいか分からずにいると、秋明は距離を詰め、百合の肩に手
「何がおかしいの? 言っておきますけどね、私ひとりの稼ぎでも、母とやっていけるのよ」 更に言葉を続けるも、矢絃の勝ち誇った顔が崩れることはない。「出て行くだと? お前の母親は終身サービス契約にサインしている。違約すれば8千万だ」「8千万!? どういうこと……!?」 母の藤子は、矢絃が副社長を務める会社で清掃員として働いている。母は常々、「今の生活があるのは熊谷さんのおかげなんだよ」と言っていた。百合はてっきり、母は矢絃が自分を雇ってくれたことに感謝しているのかと思っていた。(そういえば、最近そういう言葉聞かなくなった……)「聞いてなかったのか? お前の母親が、契約書をまともに読ま
平日の昼下がり。スーツを着こなした女性が、長い黒髪をなびかせながら高級住宅街を歩く。彼女の名は宝生百合。有名ブランドのデザイナーとして成功した上に、大企業の副社長という肩書をもつ優しくて顔のいい婚約者がいる。 セレブが多いこの高級住宅街の住人に身近な成功者を聞いたら、多くの人が彼女の名前をあげるだろう。百合は元々、高級住宅街に住めるような身分ではない。富裕層とは縁のない一般家庭で産まれ、物心付く前から、母とふたり暮らしをしていた。 熊谷矢絃《くまがいやいと》という肩書も顔も完璧な男と婚約し、高級住宅街に住むようになった。彼とは政略結婚の予定ではあるが、矢絃は百合を大事にしてくれている。







