婚約者の借金が父を奪った日
私、高坂雅(こうさか みやび)は、婚約者の星野謙吾(ほしの けんご)が賭け事で作った借金を返すため、父・高坂誠司(こうさか せいじ)と仕事に追われていた。
そんなある夜、運送業界の父は深夜便の途中で事故に遭った。
賠償金を抱えて病院へ駆け込んだ私が耳にしたのは、父が最後に残した録音だった。
「これだけあれば、謙吾くんの借金は片がつく。謙吾くんは、雅とちゃんと幸せになるつもりでいる。昔の女にしつこくつきまとわれて、抜け出せなくなっているだけなんだよ。
借金を返したら、もうあんな連中とは縁を切らせなさい」
私は父の遺影を胸に抱き、父が命と引き換えに残してくれた一千万円を、謙吾に渡すつもりでいた。
けれど、ラウンジの個室の前まで来た時、扉の向こうから彼の友人の笑い声が聞こえた。
「なあ、あの女、本気でお前に借金があるって信じ込んでるぞ。こんな大金まで用意してさ。次は何をさせる気だよ?」
謙吾の元恋人である吉川由紀(よしかわ ゆき)が、笑って口を挟んだ。
「謙吾、あの取り立て屋、私が用意したんだけど、けっこう使えたでしょ?次は、あの子が本気であなたと一緒になる気があるか試すんだっけ?」
謙吾は煙草の灰を払った。
「ああ。最後は、金を前にしても変わらずにいられるか、見極める。
俺が星野グループの御曹司だと知って、父親まで巻き込んだことを許し、それでも俺と結婚すると言うなら、あいつの愛は本物だと信じてやる」
遺影の中の父の笑顔を見つめたまま、私は震えが止まらなかった。
お父さん。これが、私たちが信じた人の本当の姿だったんだね。
謙吾、あなたとの婚約は、今日で終わりにする。
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