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第1.5章:009

ผู้เขียน: 美木 猫助
last update วันที่เผยแพร่: 2026-06-21 10:20:54

 綾乃はもう一度だけ玲に牽制の視線を送ると、心配そうに渚の頭をひとなでし、渋々と踵を返して去っていった。

 その背中が完全に遠ざかるのを見届けてから、玲はすぐさま隣の渚へと意識を切り替える。その視線は、自然と彼女の身に纏う衣服へと向いていた。

(……私服だ)

 冬の風を遮るような、身体のラインをすっぽりと隠す分厚いコート。そして首元には、顎が少し埋まるくらいにぐるぐると巻かれた暖かそうなマフラー。

 その隙間から覗く、少し赤くなった耳や、短く不揃いなショートカットの髪。制服以外の渚を、自分の視界いっぱいに収められている。ただそれだけのことが、嬉しかった。

 マフラーに顔を埋める渚の姿だけは、世界で一番特別で、眩しいものに見えた。

「行こうか」

 玲が優しく声をかけると、渚は小さく「うん」と頷いて歩き出した。

 けれど、二人の間には、大人が一人は入れてしまうほどの奇妙な距離が空いていた。玲がその距離を詰めようと、僅かに歩幅を寄せると、渚はそれに気付いているのかいないのか……すっと同じ分だけ横に逸れてしまう。

(あの日、約束を破ったこと……本当は許してくれてないんじゃ
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  • 壊したいほど好きだから、   第1.5章:014

    ※ ※ ※ 週末、約束の場所へと向かう玲の足取りは、いつになく軽やかだった。真央たちのことなど完全に脳内から締め出し、ただ早く渚に会いたい、その一心で歩く。 渚の通う学校の校門前が見えてくると、彼女はすでに門の外にいた。(あ……) 玲は歩み寄りながら、内心で小さく落胆のため息をついた。 渚はかっちりとした長袖のシャツを着ていて、その白い肌は首元と手首から先以外、ほとんど隠されてしまっている。衣替えをして半袖になった自分とは対照的に、徹底して露出を避けているかのようなその服装に、玲は寂しさを覚えた。「待たせてごめんね、渚」「ううん。今、来たところだから」 歩き出しても、二人の間にはいつものように、大人が一人すっぽりと入れてしまうだけの不自然な距離が空いたままだった。 じりじりと肌を焼くような夏の熱気。玲がふと横を盗み見ると、渚の白い頬に、きらりと汗の粒が伝っていた。 玲は自分のバッグを開けると、中から一本のペットボトルの水を取り出して、渚へと差し出した。「これ、飲んで。こっちの駅に着いてから買ったんだ。歩いてる間に少しぬるくなっちゃったかもだけど、まだ冷たいと思う。——俺、まだ口付けてないから、安心して」「え、で、でも……」「顔が赤いよ。こんなに暑いんだから、倒れでもしたら大変だよ。ほら、はい」 促すと、渚は「あ、ありがと……」と躊躇いがちに水を受け取った。 キャップを開け、コクコクと水を飲んでいく。その際、上を向いた彼女の細い喉が、生々しく上下に動くのが見えた。普段はガードの固い彼女の、一瞬だけの無防備な躍動。それがあまりにも色っぽく、そして切なく玲の目に映り、これ以上見つめていると目が離せなくなりそうで、玲は慌てて視線を逸らした。「冷たくて、美味しい」 一息ついた渚は、自分が口をつけたボトルの飲み口を、ポケットから出したハンカチで拭おうとした。 それを見た玲は、反射的に声をかけてしまう。「あ、いや、俺は別に気にしないよ。その

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     ※ ※ ※ 季節は巡り、陽射しがアスファルトを焦がす高校二年生の夏。 衣替えを迎えた玲の制服は半袖になり、白い肌が太陽の熱で焼かれる季節が今年もやってきた。糊のきいた夏服に袖を通し、自室を出て階段を下りていく。その途中で、階下から母親の朗らかな声が響いた。 「玲、真央ちゃんがもう来てるわよ。女の子を外で待たせちゃ駄目じゃない」 母親の手前、玲は反射的に端正な笑みを顔に張り付け、「うん、分かってる」と頷いた。けれど、その内心は鬱陶しさと苛立ちで激しく逆立っている。 食卓に着くと、今度は新聞から目を離した父親から「朝から彼女を待たせるもんじゃないぞ」と、いかにも父親らしい口調で注意を受けた。父親の隣に腰かけた母親も「そうよ、もっと優しくしてあげなきゃ」と楽しそうに同意する。 胸の奥に広がる不快感を押し殺しながら、玲は淡々と声を返した。「別に、彼女じゃないよ」「またまたー。毎朝あんなに仲良く一緒に登校しておいて、よく言うわよ」「小学校からの幼馴染じゃないか。甘酸っぱい青春だな」 何が面白いのか、両親は顔を見合わせてからからと笑い合う。その無邪気な笑顔が、今の玲にとってはただただ不快で、醜悪なものにしか見えなかった。「……俺には、好きな子がいるから」 それだけを告げて、玲は半分も箸をつけていない朝食を残したまま席を立った。背後から母親が「えっ、誰!? お母さん知ってる子?」と身を乗り出して訊ねてくる。けれど、玲は二度と振り返ることなく「行ってきます」とだけ言い残し、玄関のドアを開けて外へ出た。 門の外には、強い朝陽を浴びて、笑顔を浮かべた真央が立っていた。「玲! おはよう!」 弾んだ声が鼓膜を叩くが、玲の心には何一つ響かない。それどころか、両親に無神経な誤解を植え付けられたこと、そして、今年初めての自分の夏服姿を見せた相手が、渚ではなくこの女であるという事実に嫌悪感を覚えていた。 玲は真央の前に立つと、冷え切った視線で彼女を見下ろした。「朝、家に来るな」「え……?」「母さ

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     綾乃はもう一度だけ玲に牽制の視線を送ると、心配そうに渚の頭をひとなでし、渋々と踵を返して去っていった。  その背中が完全に遠ざかるのを見届けてから、玲はすぐさま隣の渚へと意識を切り替える。その視線は、自然と彼女の身に纏う衣服へと向いていた。 (……私服だ)  冬の風を遮るような、身体のラインをすっぽりと隠す分厚いコート。そして首元には、顎が少し埋まるくらいにぐるぐると巻かれた暖かそうなマフラー。  その隙間から覗く、少し赤くなった耳や、短く不揃いなショートカットの髪。制服以外の渚を、自分の視界いっぱいに収められている。ただそれだけのことが、嬉しかった。  マフラーに顔を埋める渚の姿だけは、世界で一番特別で、眩しいものに見えた。 「行こうか」  玲が優しく声をかけると、渚は小さく「うん」と頷いて歩き出した。  けれど、二人の間には、大人が一人は入れてしまうほどの奇妙な距離が空いていた。玲がその距離を詰めようと、僅かに歩幅を寄せると、渚はそれに気付いているのかいないのか……すっと同じ分だけ横に逸れてしまう。 (あの日、約束を破ったこと……本当は許してくれてないんじゃ……)  あの時——渚は「私は怒ってない。だから何も言わないで」と早口で言っていた。けれど、あれは本心ではないと玲は確信している。あんなに頑なに視線を合わせず、まるで自分を視界に入れることすら拒絶するような態度をとっておいて、怒っていないはずがないのだ。  ちゃんと、もう一度あの日のことを謝りたかった。俺が悪かったんだと、彼女の気が済むまで頭を下げたかった。  しかし——「何も言わないで」と強く釘を刺された手前、玲はそれを言葉にすることができなかった。  もしも今、無理に過去を掘り起こして謝罪を口にしたら、渚が怒って帰ってしまうかもしれない。せっかく、こうしてまた二人で出かけることが叶ったのだ。その奇跡のような現実を、自分でぶち壊すことだけは、絶対に避けたかった。 (これ以上、嫌われたくない……)  玲は喉の奥まで出かかった謝罪の言葉をぐっと飲み込み、渚の横顔に笑みを送った。二人の視線が交わることはなかったが、玲は楽しげに高校の話を自分から喋り始める。 「俺の通ってる高校のさ、担任の数学の教師がめちゃくちゃ偏屈なんだよ。授業中、ちょっとノート取る手が止まっただけで、すぐチ

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    ※ 玲が渚と初めてセックスしたのは、高校三年生のクリスマスイヴだった。 渚が手編みのマフラーをくれた。「重いよね、ごめんね」と謝った渚に、強く首を振った。渚は知らない。玲にとって、渚から貰えるなら何でも嬉しいことを。 (あのマフラーは今でも使っている) 解れるたびに渚が手直しをしてくれる。冬になると、渚に毎日抱きしめられているような気分になる。 (あのデートも、セックスも、全部覚えてる) ――こんな、安っぽいホテルではなかったのは確かだ。 消毒液の匂いが混じったラブホテルの室内。 「ほら、ちゃんと力抜いて」 優しく言っている筈なのに、声は低く、逃げ道を塞ぐ響きを持っていた

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  • 壊したいほど好きだから、   第1章:004

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