เข้าสู่ระบบ翌日の午後。
佳苗はノートパソコンの前に座っていた。
画面には履歴書作成サイト。
何度も入力しては消して。
また入力する。
「難しい……」
思わず呟く。
職歴。
資格。
志望動機。
昔なら普通に書けたはずなのに。
長いブランクがあるだけで、
急に自信がなくなる。その時。
リビングのドアが開いた。
雄吾だった。
「何してる」
佳苗は画面を指差す。
「履歴書です」
雄吾が覗き込む。
「進んでないな」
「うっ」
図星だった。
佳苗は顔をしかめる。
「志望動機が書けなくて」
「本当のことを書けばいい」
簡単に言う。
佳苗はため息を吐いた。
<「どうして?」 母は信じられないものを見るように佳苗を見た。「私が寂しかったって言ったから?」「違うよ」「じゃあ何よ。もうしないわよ。こんなこと」「うん。でも、今すぐ普通に戻るのは無理」「佳苗」「今日、私が来なかったらどうしてたの?」 母の口が閉じる。「もっと何かしてた?」「そんなこと――」「分からないでしょう?」 佳苗自身にも分からなかった。 だからこそ、怖かった。「お母さんが『具合が悪い』って言っても、これから私は、本当なのか嘘なのか考えちゃうと思う」「もう嘘なんてつかないわよ」「今そう言われても、すぐには信じられない」 母の顔が強張った。「じゃあ、本当に具合が悪くなっても、もう来てくれないの?」「そういう言い方やめて」「だってそういうことでしょう!」「違う!」 佳苗は強く言った。「本当に困ったときは助けるよ。でも、お母さんが具合悪くならないと私が来ないみたいに考えるのは、もうやめてほしい」「だったら、もっと会いに来てくれれば――」「それを決めるために、今は距離を置きたいの」 佳苗は立ち上がった。「今日は帰るね」「待って」 母も立ち上がる。「いつまで?」「分からない」「一週間? 一か月?」「決められないよ」「そんなの困るわよ!」「お母さん」 佳苗は玄関へ向かいかけた足を止めた。「私、怒ってるだけじゃないんだよ」 母を見る。「怖かったの」「……何が?」「お母さんが、服着たままシャワー浴びてるの見たとき」 事故なのかと思った。 倒れたのかもしれないと思った。 何か普通ではないことが起きていると、本気で怖くなった。「私に心配してほしくて、自分で具合悪くなろうとしたんだって分かったら、もっと怖かった」「私は別に――」「大したことじゃないって言わないで」 母の言葉を遮った。「私には大したことだったから」 母は黙り込んだ。「お母さんが元気だから、私は安心して自分の生活をしていられるんだよ」 佳苗はバッグを持った。「元気でいてくれる方がいいに決まってるでしょう」 母は何も答えなかった。 ◇ 家へ帰ると、雄吾がリビングにいた。「遅かったな」「うん」 佳苗の顔を見て、雄吾の表情が変わる。「何かあったか?」 佳苗はバッグを置いた。 何から話せばいいの
「とりあえず着替えて」 佳苗はそれだけ言った。 濡れたまま話を続ける気にはなれなかった。 母が着替えている間に、佳苗は浴室の床を簡単に拭いた。どうしてこんなことをしているのだろうと思うと、頭が混乱する。 やがて母が部屋着に着替えて戻ってきた。「温かいもの飲む?」「……いらない」「じゃあ座って」 二人で向かい合う。 しばらく、どちらも口を開かなかった。「いつから?」 佳苗が尋ねる。「何が?」「具合悪いって嘘ついてたの」「嘘って決めつけないでよ。少し頭が痛い日だってあったし、だるいことだって――」「じゃあ今日のは?」 母が黙った。「服着たままシャワー浴びてたのは、なんで?」「……」「ちゃんと教えて」 長い沈黙のあと、母が俯いた。「本当に具合が悪くなれば、嘘じゃないと思ったのよ」 佳苗は息を呑んだ。「それで私が来ると思ったの?」「だって、あのときは来てくれたじゃない」「当たり前でしょう。お母さん、本当に具合悪かったんだから」「嬉しかったのよ!」 突然、母が声を上げた。「あのとき、何も言わなくても気づいてくれたでしょう? 食べるものを買って、うどんを作って、薬の心配までしてくれて……昔の佳苗みたいだった」「昔の……?」「私のことを必要としてくれてた頃の佳苗よ」「逆でしょう?」 佳苗は思わず言った。「お母さんが私を必要としてたんでしょう?」 母が言葉を失う。「私が必要としてたんじゃない。具合が悪いお母さんが心配だったから、助けに行ったの」「同じじゃない」「同じじゃないよ」
「お母さん!」 佳苗は慌てて浴室へ入り、シャワーを止めた。 母はブラウスもスカートも着たままだった。髪から水を滴らせ、呆然と佳苗を見ている。「何してるの? 転んだ?」「……佳苗」「怪我したの? 気分悪い?」 佳苗はタオルを取って母の肩へ掛けた。「とにかく着替えて。こんな格好してたら――」「今日、来るなんて言ってなかったでしょう」 母がぽつりと言った。 佳苗の手が止まる。「え?」「どうして来たの?」「連絡つかなかったからだよ。昨日具合悪いって言ってたし、心配したから」「……心配したの?」「当たり前でしょう?」 母の顔が、ほんの少し緩んだ。 その表情に、佳苗は言いようのない違和感を覚えた。「それより、どうして服着たままシャワー浴びてたの?」「……」「お母さん?」 母は目を逸らした。「ちょっと、濡れただけよ」「ちょっとって量じゃないでしょう」「もういいじゃない。着替えるから」 母が浴室から出ようとする。 佳苗はその腕を掴んだ。「待って」「何?」「昨日から、本当に具合悪かった?」 母の表情が変わった。「何よ、また疑うの?」「だっておかしいよ」「何がおかしいのよ」「病院には行きたくない。薬もいらない。でも私には来てほしいって、そればっかりでしょう?」「一人で具合悪くなったら心細いのは普通でしょう!」「だったら、なんで服着たままシャワー浴びてるの?」 母は答えなかった。 佳苗の胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。「……お母さん」「何よ」
それから数日、母から体調不良の連絡はなかった。 佳苗も気にはしていたが、何も言ってこないなら元気なのだろうと思っていた。 そんなある日の夜。 夕食を終えた頃、スマートフォンが鳴った。「お母さん?」『佳苗……今、大丈夫?』 弱々しい声だった。「どうしたの?」『ちょっと気分が悪くて』「また?」 佳苗は思わず聞き返した。『そんな言い方しなくてもいいでしょう』「ごめん。最近多いから心配になったの。熱は?」『熱はないと思う』「吐いたりした?」『そこまでは……』「立てる?」『立てるわよ』 話を聞く限り、緊急性はなさそうだった。「明日、病院行こう。最近何度も具合悪くなってるし」『病院はいいの』「でも――」『佳苗、来てくれない?』 まただった。「今から?」『少しだけでいいから』「何か買ってきてほしいものがあるの?」『そうじゃないけど……一人だと心細いのよ』 佳苗は時計を見た。 もう遅い。「今日は行けないよ」『どうして?』「もう夜だし、明日も仕事だから」『この前は来てくれたじゃない』 佳苗は黙った。「あのときは熱もあったし、食べるものもなかったでしょう?」『具合が悪くなかったら、来てくれないの?』「そういう話じゃないよ」『じゃあ来てよ』 その言葉に、佳苗は眉を寄せた。「お母さん。今、本当に具合悪い?」 電話の向こうが静かになった。『……何よ、それ』「病院には行きたくない。でも私には来てほしいって、最近ずっとそうだから」『仮病だって言いたいの?』「そこまでは言ってないよ」『言ってるのと同じでしょう!』 急に声が大きくなった。 さっきまでの弱々しい声とはまるで違う。 佳苗はますます違和感を覚えた。「とにかく、今日は行けない。明日も具合悪かったら病院、一緒に行くから」『もういい!』 電話は一方的に切れた。 ◇ 翌朝。 佳苗は念のため母へメッセージを送った。『体調どう?』 昼になっても既読がつかない。 夕方になっても同じだった。 電話も繋がらない。「……おかしいな」 昨日あれだけ具合が悪いと言っていたことを思い出すと、さすがに放っておけなかった。 仕事を終えた佳苗は、そのまま母の家へ向かった。 合鍵で中へ入る。「お母さん?」 返事はない。 靴はある。
母の風邪は、数日ですっかり良くなった。『もう熱もないし、元気よ』 そう連絡が来て、佳苗も安心した。『よかった。無理しないでね』『この前は本当にありがとう』『どういたしまして』 それからしばらく、母との間に大きな問題は起こらなかった。 ◇ 二週間ほど経ったある日の夕方。 仕事を終えた佳苗のもとへ、母から電話が掛かってきた。「もしもし?」『佳苗? 今、仕事終わった?』「うん。どうしたの?」『ちょっとね……また具合が悪くて』「また?」 佳苗は足を止めた。「風邪ぶり返したの?」『分からないけど、朝からなんとなくだるくて』「熱は?」『少しあるかもしれない』「測ってないの?」『まだ』「じゃあ測ってみて。食べるものはある?」『この前買ってきてもらったものは、もうないわね』 佳苗は時計を見る。 このあと雄吾と待ち合わせをしていた。「動けないくらい具合悪い?」『そこまでじゃないわよ』「じゃあ、とりあえず熱測ってみて。高かったら病院行った方がいいよ」『……来てくれないの?』「え?」『この前は来てくれたでしょう?』 佳苗は少し戸惑った。「あのときは本当に熱があって、食べるものもなかったから」『今日だって具合悪いのよ』「うん。だから心配してるよ。でも、動けるなら今日は家で休んで、明日も治らなかったら病院に行った方がいいと思う」 電話の向こうが静かになる。「何か必要なら、ネットスーパーで送ろうか?」『……いいわ』「本当に?」『そこまでしてもらわなくて大丈夫』
母との電話から数日後。 佳苗のもとへ、今度は恵から電話が掛かってきた。『お姉ちゃん、今大丈夫?』「うん。どうしたの?」『お母さんから変なこと言われた』「変なこと?」『しばらく私から連絡しないでって』 佳苗は眉を寄せた。「どうして?」『お姉ちゃんがいつ気づくか見たいんだって』「……何それ」 思わず声が低くなる。『私もやめなよって言ったんだけどさ』「うん」『だって、私がお母さんと普通に連絡取ってたら、本当に何かあったときはお姉ちゃんにも言うでしょ? それじゃ意味ないって』 佳苗はしばらく言葉が出なかった。 母が何を確かめたいのかは分かる。 自分から連絡しなくても、娘が心配してくれるのか。 けれど、そのために恵まで巻き込むのは違う。「恵は普通にしてて」『もちろん。そのつもり』「お母さんに何かあったら教えて」『当たり前じゃん』 恵は呆れたように言った。『こういうの、試すのよくないと思うんだけど』「私もそう思う」 ◇ その日の夜、佳苗は母へ電話を掛けた。『どうしたの?』「恵から聞いたよ」 母が黙る。「私がいつ連絡するか確かめたいって、本当?」『……恵、言ったのね』「お母さん」『別に大したことじゃないでしょう?』「大したことだよ」『ただ、あなたがどれくらい私のことを気にしてるのか知りたかっただけよ』「だったら普通に聞いて」『聞いたら意味ないじゃない』 佳苗は小さく息を吐いた。「そういうふうに試されるの、嫌だよ」『試すって……そんなつもり
恵が帰ったあとも、佳苗はしばらく動けなかった。 心臓が嫌なほど脈打っている。 あの目。 一瞬だけ見せた、冷たい視線。 前世では最後まで気づかなかった。 恵はずっと、自分から奪うことを楽しんでいたのだ。「……っ」 佳苗は唇を噛み締める。 怖い。 けれど、それ以上に悔しかった。 どうして自分は、あんな人たちのために命まで懸けてしまったのだろう。 テーブルの上に置かれた結婚写真が目に入る。 幸せそうに笑う自分。 悟の腕に寄り添って、未来を信じ切っていた頃の自分。 ――滑稽。 佳苗は震える手で写真立てを伏せた。 もう戻れない。 戻りたくもない。 今度こそ終わらせ
「……今、泣いてるのか?」 低く静かな声が耳に落ちる。 その一言だけで、張り詰めていた感情が崩れそうになった。 佳苗は慌てて口元を押さえた。「な、泣いてません」『嘘が下手だな、お前は昔から』 昔から。 その言葉に、大学時代の記憶が蘇る。 榊原雄吾。 成績優秀、容姿端麗、誰にも媚びない孤高の男。 学生の頃から有名だった。 近寄りがたい人だったのに、なぜか佳苗にはよく話しかけてきた。『また他人の仕事押し付けられてるのか』『断れないのか、お前は』 呆れたように言いながら、結局いつも助けてくれた。 けれど卒業後は一度も会っていない。 それなのに、どうして今。「どうし
「佳苗? 本当にどうしたんだよ」 怪訝そうな顔で、悟がこちらを見る。 その優しげな声に、佳苗は思わず身を強張らせた。 前世でも、この男はこんな顔をしていた。 穏やかで、頼れて、優しくて。 だから信じてしまったのだ。 まさか裏で妹と不倫し、自分を“代理母”として利用していたなんて、夢にも思わなかった。「顔色悪いぞ。熱でもある?」 悟が立ち上がり、額に触れようと手を伸ばしてくる。「っ……!」 佳苗は反射的にその手を振り払った。 ぱしん、と乾いた音が響く。 悟が目を見開いた。「……佳苗?」 しまった、と思った。 前世の記憶が蘇ったとはいえ、今の悟はまだ“何も知らない夫
「……っ、はぁ……ぁっ……!」 全身を引き裂かれるような痛みに、藤倉佳苗は汗で濡れたシーツを握り締めた。 眩しい手術灯。鼻を刺す消毒液の匂い。何度も響く機械音。 苦しい。 息ができない。「もう少しです! 頑張ってください!」 医師の声が遠い。 お腹の奥が裂けるように熱い。 それでも佳苗は必死に意識を繋いだ。(赤ちゃん……) やっと会える。 悟との子供。 愛する夫との、大切な命。 その一心だけで耐えていた。 けれど次の瞬間、医師たちの声色が変わった。「血圧低下!」「出血が止まりません!」「急げ!」 視界がぐらりと揺れる。 寒い。 急激に体温が奪われていく。