เข้าสู่ระบบ翌朝。
佳苗は朝食の準備をしながら、
昨夜のことを思い出していた。雄吾の表情。
あの冷たい目。
何かあったのは間違いない。
けれど。
聞いても教えてくれなかった。
そのことが少し気になっていた。
味噌汁を温めながら考えていると。
背後から声がした。
「早いな」
振り返る。
雄吾だった。
「先輩こそ」
「仕事だ」
いつもの返事。
佳苗は少し笑う。
その時。
雄吾が静かに言った。
「昨日の件だが」
佳苗の手が止まる。
やっぱり。
「管理会社から映像が届いた」
胸が重くなる。
雄吾はテーブルへスマホを置いた。
「見るか?」
佳苗は迷う。
見たくない。
商店街をしばらく歩いても、佳苗は何も話せなかった。 さっきまで聞こえていた人々の笑い声も、どこか遠く感じる。 胸の奥が少しだけ重かった。「……すみません」 ぽつりと呟く。 雄吾が足を止めた。「何がだ」「せっかくのお休みだったのに」 佳苗は俯く。「嫌な思いをさせてしまいました」 雄吾は少しだけ眉をひそめた。「違うだろ」 佳苗が顔を上げる。「悪いのはお前じゃない」 短い言葉だった。 けれど、その一言だけで胸の奥の重さが少し軽くなる。「でも……」「気にするな」 雄吾はそれ以上何も言わなかった。 慰めるような言葉も。 恵を責めるような言葉も。 ただ、佳苗の歩幅に合わせて歩いてくれる。 その優しさが、今はありがたかった。 商店街を抜けると、小さな公園が見えてきた。 ベンチが空いている。「少し休むか」 佳苗は小さく頷いた。 二人で腰を下ろす。 風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが静かに響いていた。「驚きました」 しばらくして佳苗が口を開く。「私、あんなふうに恵へ言い返したこと、一度もなかったので」 思い返してもそうだった。 子どもの頃から。 恵が泣けば譲った。 恵が欲しいと言えば我慢した。 母もいつも言っていた。『お姉ちゃんなんだから』 その言葉を疑ったことはなかった。「今日は違ったな」 雄吾が静かに言う。 佳苗は少し照れたように笑った。「先輩がいたからかもしれません」「俺は何もしてない」「そんなことありません」
「……恵」 佳苗は思わず妹の名前を呼んだ。 最後に会った離婚協議の日よりも、恵はやつれて見えた。 丁寧に整えていたはずの髪は少し乱れ、目の下には薄く隈が浮かんでいる。 それでも佳苗を見つめる瞳だけは、鋭く揺れていた。「久しぶり」 佳苗は努めて穏やかに声を掛ける。 恵は返事をしない。 代わりに視線を雄吾へ向けた。 雄吾も無言で軽く会釈をする。 恵はその二人を何度も見比べた。「そうなんだ」 ぽつりと呟く。「今度はこの人なの?」 佳苗は小さく眉を寄せた。「違うよ」「何が違うの?」 恵は乾いた笑いを漏らす。「一緒に出掛けて、笑って、ご飯食べて」 商店街を見回しながら言葉を続けた。「どう見てもデートじゃない」「恵」「お姉ちゃんって、本当にずるいよね」 その一言に、佳苗は息を呑んだ。「私は全部なくなったのに」 恵の声が少し震える。「悟さんにも出て行けって言われて、お金もなくて、仕事もうまくいかなくて」 唇を噛み締める。「なのに、お姉ちゃんは新しい男の人と楽しそうに笑ってる」 恵は佳苗を睨みつけた。「どうしていつもお姉ちゃんばっかりなの?」 通りを歩く人たちが、何事かと足を緩める。 佳苗は静かに息を吸った。 以前なら。 きっと謝っていた。 自分が悪くなくても、「ごめんね」と言っていた。 でも――。「恵」 佳苗はまっすぐ妹を見つめる。 その声は驚くほど落ち着いていた。「私は、あなたから何かを奪ったことはないよ」 恵の肩がぴくりと震える。「悟さんを選んだのは、あなた」 佳苗は
翌週の日曜日。 佳苗は約束の時間より少し早く支度を終え、リビングへ向かった。 雄吾はすでにソファへ座り、スマートフォンを眺めている。「お待たせしました」「ああ」 雄吾は立ち上がった。「行くか」「今日は教えてくれるんですか?」「昨日言っただろ」「食べる、だけですよね」「十分だ」 佳苗は苦笑する。 結局、今日も目的地は分からないままだった。 二人は電車へ乗り、三十分ほど揺られる。 降り立った駅は休日らしく、多くの人で賑わっていた。「ここは……」「商店街だ」 雄吾が歩き出す。 アーケードの下には食べ歩きのできる店がずらりと並んでいた。 焼き小籠包。 メンチカツ。 フルーツ飴。 焼きたてのクッキー。 甘い匂いと香ばしい匂いが入り混じっている。「すごい……」 佳苗は思わず辺りを見回した。「こういうところ、初めてです」「そうか」 雄吾はどこか満足そうだった。「まずはこれ」 そう言って買ってきたのは、熱々の焼き小籠包だった。「気を付けろ」「はい」 佳苗は一口かじる。「熱っ」 思わず目を丸くすると、中から肉汁が溢れ出した。「おいしい……!」 雄吾はその様子を見て小さく笑う。「予想どおりだ」「先輩!」「そんなに嬉しそうな顔するとは思わなかった」 佳苗は少し頬を膨らませる。 けれど嬉しくて仕方がない。 二人はゆっくり商店街を歩いた。 気になる店があれば立ち止まり、少しずつ買って分け合う。「
朝食を終えたあと、佳苗は食器を流しへ運んだ。「洗い物は私がやります」「いや」 雄吾は立ち上がり、食器を一枚受け取る。「今日は半分ずつだ」「半分ずつ?」「ああ」 そう言うと、ごく自然な手つきで洗い始めた。 佳苗は思わず笑ってしまう。「それ、子どもみたいですよ」「公平だろ」「そうですけど」 結局、二人で並んで洗い物をすることになった。 食器を洗う雄吾。 佳苗は隣で拭いていく。 たまに手が触れそうになって、お互い少しだけ譲り合う。「すみません」「いや」 そんな短いやり取りが何度か続き、最後の皿を棚へ戻した。「終わりましたね」「ああ」 佳苗がエプロンを外した、その時だった。「そういえば」 雄吾が思い出したように口を開く。「来週の日曜、空いてるか」 佳苗は振り返る。「来週ですか?」「ああ」 少し考える。 資格試験まではまだ少し時間がある。 会社の予定もない。「空いてます」 そう答えると、雄吾は小さく頷いた。「なら出掛けるぞ」 また説明がない。 佳苗は思わず笑った。「今度は教えてくれないんですか?」「秘密だ」「またですか」「前も文句を言ってたな」「だって、本当に何も教えてくれないじゃないですか」 佳苗が少しだけ頬を膨らませると、雄吾は珍しく声を立てて笑った。「その顔」「え?」「前はしなかった」 佳苗はきょとんとする。「そうですか?」「ああ」 雄吾は頷いた。「前のお前は、遠慮ばかりしてた」
その夜。 買ってもらったプリンを食べながら、佳苗は何度も思い返していた。 駅まで迎えに来てくれたこと。 何も聞かずにプリンを買ってくれたこと。 どちらも雄吾にとっては大したことではないのだろう。 だからこそ困る。 何気ない優しさだから。 余計に心へ残ってしまう。「何笑ってる」 食器を洗いながら、雄吾が振り返った。 佳苗ははっとする。「え?」「さっきから」 言われて初めて気付いた。 自分は笑っていたらしい。「そんなに美味しかったか」 佳苗は照れ隠しにプリンの空を見つめた。「……美味しかったです」 嘘ではない。 でも、それだけじゃなかった。 雄吾は「そうか」とだけ言って洗い物を続ける。 佳苗はその背中を見つめ、小さく笑った。 本当に。 敵わない人だ。 翌朝。 目を覚ますと、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。 佳苗は寝ぼけ眼のままリビングへ向かう。「おはようございます」「ああ、おはよう」 雄吾はエプロン姿でフライパンを振っていた。 佳苗は目を丸くする。「先輩?」「何だ」「もう料理してるんですか?」「熱は下がった」 そう言って味噌汁の火を止める。 確かに顔色も昨日よりずっといい。 佳苗はほっと胸を撫で下ろした。「良かった……」 思わず本音が漏れる。 雄吾は苦笑した。「そんなに心配だったか」「当たり前です」 佳苗は即答してしまう。 その瞬間、自分でも少し言い過ぎたと思った。 慌てて視線を逸らす。
翌週の金曜日。 佳苗は時計を見上げ、小さく肩を落とした。 午後六時半。 普段ならもう帰り支度をしている時間だった。「ごめん、佳苗さん」 課長が申し訳なさそうに近づいてくる。「この書類、今日中に確認だけお願いできる?」「はい、大丈夫です」 佳苗は笑顔で頷いた。 入社してまだ日が浅い。 頼ってもらえるのは嬉しかった。 急いで資料を確認し、入力を終える。 気が付けば七時半を回っていた。「終わりました」「助かったよ。ありがとう」 課長に礼を言われ、佳苗はほっと息をつく。 会社を出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。「遅くなっちゃった……」 スマートフォンを見る。 雄吾からメッセージが届いていた。『まだ会社か』 短い一文。 佳苗は少しだけ頬を緩める。『今終わりました。これから帰ります』 送信すると、すぐに返信が返ってきた。『駅にいる』 佳苗は思わず立ち止まった。「え?」 駅にいる。 その意味を理解するまで数秒かかった。 急いで改札へ向かう。 人混みの向こうに、見慣れた姿があった。 雄吾は柱にもたれ、スマートフォンを見ている。 佳苗に気付くと顔を上げた。「先輩?」 思わず駆け寄る。「どうしたんですか?」「迎え」 あまりにも簡潔な答えだった。 佳苗は目を丸くする。「迎えって……」「今日は遅いだろ」 それだけだった。 佳苗は胸の奥がじんわりと温かくなる。「連絡してくれれば良かったのに」「仕事中だろ」
翌朝。 佳苗は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。 静かだった。 いや。 静かすぎた。 いつもなら。 隣の部屋で物音がする。 コーヒーメーカーの音。 新聞をめくる音。 そんな些細な生活音があった。 今日はない。「……本当にいないんだ」 思わず呟く。 自分でも少し驚いた。 昨日も同じことを思ったはずなのに。 朝になるとまた実感す
雄吾が出張へ出てから。 最初の数時間は案外普通だった。 洗濯をして。 掃除をして。 昼食を作る。 テーブルの上には、 朝見つけたメモがまだ置かれていた。『昼飯を忘れるな』 たった一行。 佳苗は思わず笑う。「ちゃんと食べましたよ」 誰もいない部屋で呟く。 その後。 少しだけ資格の勉強をした。 参考書を開き。 ノートへ書き込む。 前より集中で
出張当日の朝。 佳苗は少し早く目を覚ました。 まだ外は薄暗い。 時計を見る。 午前六時。「早すぎる……」 思わず呟く。 普段なら二度寝している時間だった。 けれど。 なぜか眠れなかった。 佳苗は諦めてベッドを出る。 顔を洗い。 着替えを済ませ。 キッチンへ向かった。 朝食でも作ろう。 そう思ったのだ。 その
「二泊三日だ」 雄吾の言葉に。 佳苗は思わず聞き返した。「結構長いですね」「そうか?」 雄吾は平然としている。 佳苗は口を閉じた。 二泊三日なんて。 普通なら大した期間じゃない。 それなのに。 なぜか落ち着かない。「何か問題あるか」 雄吾が尋ねる。「いえ」 佳苗は慌てて首を振った。「大丈夫です」 本当に。 大丈夫なはずだ







