詩音
結婚して五年目、白洲雨子(しらす あめこ)は偶然、秦野和也(しんの かずや)が養妹のレースの下着を手に、欲望を発散している場面を目撃してしまった。
和也は片手で数珠を弄びながら、もう一方の手では抑えきれない欲望に溺れていた。
扉一枚隔てた向こうで、彼が養妹に向けて吐き出す言葉にできない愛情を、雨子は息を殺して聞いていた。
力が抜けて床に崩れ落ち、涙が頬を伝う。
冷徹で近寄りがたい仏道修行者など、最初から存在しなかった。彼が手にしていた数珠は、ただ口にできない秘められた欲望を封じ込めるための道具に過ぎないのだ。
十年もの間、雨子は彼を追い続けてきた。けれど結局、自分が滑稽な笑い話にすぎなかったことを思い知らされる。
養妹が離婚して家に戻ってきたその日、雨子は南方行きの航空券を購入した。
この場所のすべてと、きっぱり決別するために。
養妹の未来を整えるために、和也は自らの手で、雨子を「贈り物」として差し出したのだった。
「安心しろ。一か月後には迎えに行く。お前は変わらず俺の妻だ」
雨子の心は完全に冷え切って、彼女は偽りの死を装って姿を消した。
雨子が崖から落ち、遺体すら見つからなかったと知った瞬間、和也は激しく後悔した。
彼は狂ったように彼女を探し回ったが、どこにもその影はなかった。
一年後、南方の小さな花屋の扉を開けたとき、彼は再び雨子と出会った。
和也の目は真っ赤に染まり、膝をついて復縁を懇願した。
だが彼女は微笑みながら、どこかよそよそしく、丁寧に言った。
「申し訳ございません、さっそく閉店させていただきます。主人と帰宅しますから」