マリモ
同窓会で、私・長瀬恵茉(ながせ えま)は彼氏に頼まれた用事を済ませて席へ戻った。
だけど、さっきまで私が座っていた場所には、もう親友の清水優奈(しみず ゆうな)が座っていた。
私のグラスも取り皿も片づけられ、新しい食器が並べられている。
まるで、最初から私なんてそこにいなかったかのように。
私に気づいた優奈が立ち上がろうとした、その瞬間――
竹内英二(たけうち えいじ)は彼女の肩を軽く押さえた。
「どうせ俺たちが事件の話をしても、彼女にはわからないし。ここにいても愛想笑いするだけだから」
その場にいた誰一人として口を挟まなかった。
みんな知っている。
あの頃、家の事情で私は大学を中退せざるを得なかったことを。
大学時代、彼と優奈は法学部きっての名コンビだった。
数々の難事件を力を合わせて解決し、「最強のバディ」と呼ばれていた。
卒業後も二人はそろって一流法律事務所へ。
法曹界のエリートとして華々しい道を歩んでいる。
一方の私は――
彼氏のコネでようやく事務所に入れてもらった、ただの雑務係。
私はその場に立ち尽くしたまま、何も言えなかった。
英二は私が買ってきたタバコを何気なく受け取ると、当然のように言った。
「優奈がジュース飲みたいって。悪いけど、買ってきてくれる?」
そう言いながら、一度も私を見ることはなかった。
すぐに彼はまた優奈との会話へ戻り、楽しそうに事件について語り合う。
二人の笑い声で満ちたその空間の中で――
私は、ふいに疲れてしまった。
どれだけ必死に手を伸ばしても届かなかった人。
もう、その背中を追いかけるのはやめようと思った。