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愛されている時は掌中の珠、愛されていない時は足元の泥

愛されている時は掌中の珠、愛されていない時は足元の泥

結婚の二週間前、田中陽介は突然、結婚式を延期すると言った。 「由美がその日、初めての個展を開くんだ。オープニングセレモニーは彼女一人だけだって。きっと心細いだろうし、俺が行って手伝わないと」 「俺たちの関係はこんな形式に縛られないだろう?結婚するのが一日早かろうが遅かろうが、何も変わらないさ」 でもこれで、陽介が高橋由美のために結婚式の日取りを延ばすのは三度目だった。 一度目はこうだった。由美が手術を終えたばかりで、故郷の食べ物が恋しいと言い出した。陽介は二ヶ月間も海外に行って、彼女の面倒を見ていた。 二度目は由美が深い山奥にスケッチに行くと言い出した時だ。彼女が危険な目に遭うんじゃないかと心配して、同行した。 そして、これが三度目。 電話を切った私は、向かいに座っている幼馴染の松本優斗に目をやった。彼は相変わらず、気だるそうな姿勢で椅子にもたれている。 さすが御曹司。手元のエメラルドがあしらわれた杖をリズミカルに大理石の床に叩きつけている。 「奥さんがまだ一人足りないんじゃない?」 結婚式当日、由美は軽い笑みを浮かべながらグラスを掲げ、男が乾杯に応じるのを待っていた。 けれどその男は赤い目をして、全国最大の不動産会社である松本グループの御曹司の結婚式のライブ中継を見つめていた。
Short Story · ラノベ
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恩返しの結婚

恩返しの結婚

栗原真人(くりはら まさと)がオフィスで女性といちゃついている時、緒方莉緒(おがた りお)はホテルに電話し、すでに彼のために、部屋を取っておいた。 真人がバーで騒いでいる時、莉緒は「そろそろ帰りましょう」と一言言っただけだった。すると彼はビール瓶でいきなり彼女の額を殴りつけた。真っ白なワンピースを真紅の血が染め上げ、その光景は目を背けたくなるほどだった。 真人は若いモデルを連れてホテルの部屋の前まで来て、扉の前で激しく抱き合い始めても、傍らに立つ莉緒の存在をまったく気にする様子はなかった。彼は莉緒に「ここを一歩も離れるな」と言い放った。 莉緒は頭を下げ、恭しく横に立っていた。彼の連れてきた女性は彼女に向かって嘲るような笑みを浮かべたが、莉緒は無表情のままだった。 もう慣れている。五年間、真人に虐げられ、これ以上屈辱的なことだって何度も経験してきた。 部屋の中からは男女の声が漏れ、まるで階全体に響き渡るかのようだった。莉緒はその場にとどまらず、静かに別荘へ戻った。玄関をくぐった瞬間、力が抜けたように倒れ込んだ。 壁に掛けられていたウェディングフォトが彼女の腕に落ちて、長く鋭い傷を残した。
Short Story · 恋愛
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私たちのリセットタイマー

私たちのリセットタイマー

私と夫は、どっちも嘘つきだ。 彼は「初恋なんて忘れた」なんて言いながら、スマホの中はあの人の写真ばかり。 私は「絶対に離れない」って言いながら、彼のいない未来を用意してた。 一か月前、私は夫に離婚協議書へサインさせた。 今日は、そのカウントダウンの最終日。 カウントダウン、残り三時間。荷物は全部まとめ終わった。出国のチケットも、もう手元にある。 カウントダウン、残り二時間。二人で撮った写真は全部切り抜いて、アルバムには私だけ。 カウントダウン、残り一時間。彼に残す、最後の動画を撮った。 「亮。今日で、あなたを愛して十年。そして、あなたから離れる一日目」
Short Story · 恋愛
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貴方は海で笑う夜、私は愛を葬った

貴方は海で笑う夜、私は愛を葬った

夏目澪(なつめ みお)は流産した。 彼女は篠原洵(しのはら まこと)を十年も愛し、大学二年で中退して結婚した。結婚生活三年間、文句も言わずに尽くしてきた。 あの秘密のファイルを見つけるまでは。 自分が、洵と彼の「忘れられない初恋の人」との身勝手なゲームの一部に過ぎなかったことを、彼女は知ってしまう。 病室で、洵がその初恋の相手と海釣りをしていると知り、澪は離婚を切り出した。 かつて誰にも見下されていた専業主婦は見事に変貌を遂げた。 高級ジュエリーブランドのマスターデザイナーに。世界的なピアニストが唯一の師匠に。サーキットの女神に。 外務省トップ高官の令嬢に。そして、資産数兆を誇る上場企業のトップに…… 澪の周りに求婚者が増えていくのを目にして、洵は執拗に彼女に付きまとい始めた。 澪はその煩わしさに耐えかね、自らの死を偽装して姿を消した。 空の墓の前で、洵は夜ごと膝がすり切れるほどに跪き、許しを請い続けた。 ついにある日、彼は「死から蘇った」元妻と偶然に再会し、目尻が熱くなった。 「澪、一緒に家に帰ってくれないか?」 澪は微笑んだ。 「篠原さん、変な呼び方はやめてよ。私たちはもう離婚した。今の私は、独身なのよ」
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響きあうカデンツァ

響きあうカデンツァ

孤独を抱える作曲科の学生・篠原響は、高校時代のトラウマから「同性しか愛せない自分は気持ち悪い」と思い込み、ひとり静かに作曲だけを続けていた。
 そんな響の前に現れたのが、声楽科に通う明るく情熱的なシンガー・藤堂晴真。
晴真は偶然耳にした響の曲に心を奪われ、「この歌を、俺に歌わせてくれ」と迫る。
人懐っこく、真っ直ぐにぶつかってくる晴真に、響は戸惑いと恐怖を覚える。
けれど同時に、誰にも触れさせなかった心を揺さぶられていく。 やがて二人は共に音楽を作り始めるが、周囲の目は厳しかった。
「普通じゃない」と陰口を叩かれ、プロデューサー・鷲尾誠司からは「売れる歌を作れ」と圧力をかけられる。

BL
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遅れて来る春に抱かれて

遅れて来る春に抱かれて

すみれは「白血病」を患う恋人の遼介を救うため、何度も自分の血を差し出してきた。だがある日、彼が健康そのものの姿で、初恋の紗英と一緒にウェディングドレスを選んでいるのを目撃してしまう。 「彼専用の血液バンクは、もうとっくに私のものになってるのよ」紗英が投げつけたのは、ガラス片の散ったトウシューズだった。 遼介もまたすみれにそれを履かせ、「踊ってみろ」と迫る。 足裏が切り裂かれたとき、彼の「心配そうな演技」は、招待客の目を欺くためのものにすぎなかった。 「代役が愛を語る資格なんてある?」すみれは空の輸血パックを揺らし、告げる。 「この病院はうちのものよ。彼が病気を装っていたのは、すべて私のためなの」 その録音を隠し持ち、すみれは初恋の蓮と結婚する決意をする。かつて「盲目の少年」だった彼はすでに視力を取り戻し、二千億もの結納金を用意して三年間彼女を待っていたのだ。 結婚式当日。遼介は両親を人質にすみれを脅すが、山道での逃走劇は蓮のヘリに阻まれる。 事故の後、神谷家は破滅し、泥にまみれて膝を折った遼介を背に、すみれは蓮が差し出す代々受け継がれてきたバングルを受け取り、唇を重ねる。 「遼介、今度こそ、私の世界から消えて」
Short Story · 恋愛
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銀のとばりは夜を隠す

銀のとばりは夜を隠す

 そこそこ腕に覚えのある田舎令嬢。それがわたしレリアーヌ・バタンテールです。  ある日わたしがとある偉い人から受けた依頼は、女学院に通う高貴な公爵令嬢であるアン・ティボー・ル・ロワ様の護衛でした。女学院に入学するついでに、護衛対象のご令嬢と同室にしていただいて、あとはお守りするだけの簡単なご依頼です……と思ったら?!  え? 公爵令嬢様の頭が取れたんですが?! え? カツラ!? えぇ?! 令嬢様は令息様?!  いつの間にか女装だった公爵令息様に気に入られ、令息様のお命を狙う相手からお守りしたり、女装の理由が明らかになったりと、色々関わるうちに、令息様がわたしの特別になっていく。
ファンタジー
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初恋は白く、傷痕は紅く

初恋は白く、傷痕は紅く

「千尋(ちひろ)、よく考えなさい。このチャンスは滅多にないわ。ヴェルナ芸術学院があなたの作品を見て、名指しで入学して欲しんだよ。一度諦めたことがあったけど、もう二度と逃してほしくないのよ。しっかり考えてから返事をちょうだいね」 薄暗いリビングのソファに座り、離婚届を指でそっとなぞりながら、相原千尋(あいはら ちひろ)の決意は固まった。 「先生、もう決めました。おっしゃる通りです。このチャンスを無駄にはできません。ただ、少しだけ片付けなければならないことがあるので、一か月後にヴェルナへ行かせてください」 「そうね、あなたがそう決めたのなら安心だわ」 スマホの画面がゆっくりと消え、真っ暗になった部屋の中で千尋はぼんやりと虚空を見つめていた。その静寂を破ったのは、玄関の扉を開ける音だった。 「千尋?なんで電気もつけずにいるんだ。暗い中でスマホを見ると目に悪いぞ。それにこんな時間まで起きてなくていい、先に寝てろって言ったろ?」 帰宅した江藤怜(えとう れい)は千尋の額に軽くキスを落とし、そのまま抱き寄せて二階の寝室へ向かう。 「まったく、あいつらは俺が早く家に帰りたいって言ってるのに、毎晩毎晩飲み会だのカラオケだのって引っ張りまわしてさ」 「ただ歌ってるだけなら……別にいいけど」 千尋は怜の横顔を見つめながら視線を下げていき、彼の顎の下に残されていた薄いキスマークをじっと見ていた。 彼女の唇が皮肉げに歪み、自嘲気味な笑いが漏れた。 怜が本当に友人たちと飲み歩いているのか、それとも、実際には星野晴美(ほしの はるみ)のそばにいるのだろうか?
Short Story · 恋愛
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三百枚目の借用書

三百枚目の借用書

私は宮本奈穂(みやもと なほ)。十歳から十八歳までの八年間、両親に言われるまま、二百九十九枚もの借用書を書かされてきた。 両親からお金をもらうたび、それは必ず借り扱いにされ、成人したら返せと約束させられる。 交通事故に遭い、治療費を支払う段になったとき、六万円足りなかった。 追い詰められた私は、仕方なく両親に頭を下げる。 けれど返ってくるのは、冷ややかな笑みだけだ。 「奈穂、あなたもう十八歳なんだよ。親としての金銭的な責任はもう終わりだ。どうしてもなら、借用書をもう一枚書きなさい」 私は涙をこらえながら、三百枚目の借用書を書きつける。 手術が終わってスマホを開くと、両親の養女である妹の宮本美緒(みやもと みお)のインスタの投稿が目に飛び込んでくる。 海外のクルーズ船で十八歳の誕生日を祝う彼女。取り巻きに囲まれて、まるで小さなお姫さまのように輝いている。 両親からの贈り物は、都心の広いマンション一室と一台のマセラティだ。 そして、私の幼なじみ――藤原涼太(ふじわら りょうた)も、彼女に向ける眼差しは愛に満ちている。 投稿にはこう綴られている。 【最愛の人たちが、私にいちばんいいものをくれた。ありがとう】 私は手の中でくしゃくしゃに握りつぶした借用書を見下ろし、不意に笑う。 すべてを返し終えたら、こんな家族なんて、もういらない。
Short Story · ラノベ
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羽琴の姫君…羽琴をつま弾く哀しき姫の願いと流転する悲劇の果て2

羽琴の姫君…羽琴をつま弾く哀しき姫の願いと流転する悲劇の果て2

敵国との平和条約で、人質(名目は大使)に選ばれた実の娘の身代わりとなった エリンシア姫...... ◇◇◇ 彼女は琴の名手.....恋人を殺した男、国の支配者の宗主の側室(愛人)になっていたエリンシア..... ◇◇◇ 今度は敵国の王と不倫関係になってしまう..... ........嫉妬深い面もあるが美貌の王妃にも 琴の演奏に穏やかな気質で 廻りからも気に入られ愛される事にはなるが ◇◇◇ ……事情を全て知る大貴族からの求婚に戸惑うエリンシア ◇◇◇ .......しかし、第三の敵の国、北の国からの来襲で、都は陥落!.......騒乱の中で流転する悲劇!エリンシア姫の運命は?
ファンタジー
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