絶望から生まれ変わった彼女
私に危篤の知らせが届いたあの午後、神山時矢(かみやま ときや)は研究室でシャンパンを開けた。
SNSには、夕陽を浴びる彼と京本玲奈(きょうもと れいな)の後ろ姿が映っていた。
白衣は金色に染まり、添えられた文はたった一行——【十年。ようやく、成功した】
誰もが口をそろえて言った。神山教授は一途な人だ。私を救うために十年間、眠る間も惜しんで研究を続けたのだと。
看護師が涙ぐみながらスマホを差し出したとき、私はモニターの上で波打つ心拍の線をただ見つめていた。
彼らは知らない。その薬は、一年前にはすでに完成していたということを。
そして私は——その薬を使う資格のない、ただ一人の候補者だった。