LOGIN昼間はメイド、夜は彼の慰み物。 あの日、いつものように、痛みに耐えながら小泉京志とやった。用が済むと、乱暴にも私をベッドから引きずり起こした。 「明日から来なくていい」と、吐き捨てるような声だった。 それを聞くなり、私は思わず足元が崩れ、ドシンとその場にひざまずいた。 「わ、私……何か粗相をしましたか?どうか、どうかお追い出しにならないでください」 ついさっきまで優しく囁いてくれた男が、今は冷たい目で私を見下ろしている。 「栞が結婚を承諾してくれた。彼女は痛がりだからな。お前はただの練習台だ。使い終われば、それで終わり」 さらに、唇を歪めて続ける。 「お前は従順だろ、どうするか分かっているよな」
View More私は京志に目隠しをされたまま、見知らぬ場所へ連れて行かれた。目を開けると、自分は見知らぬ寝室に横たわっている。周りの窓はすべてきっちりと閉ざされ、昼間でさえ常に明かりが必要なほどだった。しかしインテリアから察するに、まだフランスにいるようだ。それなら良い、ほっと一息つくと、智史の到着を静かに待っている。迷子防止のために旅行会社から配られた位置情報確認用の端末。まさか、こんな緊急時に役立つとは思わなかった。やがて京志が食べ物を運んできて、私の隣に座る。突然、ぎゅっと抱きしめ、私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。「会いたかった」と呟く。彼は決して離そうとせず、片手でスプーンを取ると、私の口元へ運ぶ。「口を開けて」私は反射的に彼の手を払いのけた。ガラスのスプーンが床に落ち、鋭い音と共に粉々に散った。「そんなことして何の意味があるの?もうあなたへの想いは、とっくに消えているんだから」その瞬間、京志の腕が鉄のように締め付けてきた。息苦しさで視界が揺らぐ中、彼の低いうなるような声が耳元で響く。「黙れ!食べない?じゃあ、他のことをしてやる」すると、身を翻し、私を押し倒そうとした。ドン!ドアが激しく蹴破られる音が響き、智史の切迫した叫び声が部屋に響き渡る。「白石さん!助けに来ました!」私の上に覆いかぶさっていた京志は、すぐさま警察に取り押さえられ、両腕を背後で拘束された。「何をするんだ!離せ!」智史が駆け寄り、私の様子を確認する。「大丈夫?無事か?」「ええ、一応」押さえつけられながらも京志の目は血走り、狂気のような形相で睨みつけてくる。「彼女から離れろ!触れるな!」智史はそれを無視し、警察に向かって言う。「では、お願いします」私はただ茫然と、その場に立ち尽くすしかなかった。京志が抵抗しながらも連行されていく後ろ姿を、複雑な思いで見送った。智史が私に近づき、囁くように言う。「安心してください、彼は二度と近づかないから。それに、あの婚約者の方もプレッシャーをかけているらしい。もうすぐ京志の家も終わりでしょう」私は軽くうなずき、感謝の笑みを返した。ふと彼の履いている靴に目が止まる。実は前から気になっていた。見た目はボロボロだが、確かにあの限定モ
「後ろの車、追ってきてます?」智史がハンドルを強く握りしめる。振り返った一瞬で、私の心臓は高鳴った。さっき智史が見かけた男は、やはり京志だったのだ。「速く!追いつかれないように!」私はシートベルトを握りしめて叫ぶ。智史はアクセルを床まで踏み込み、ボロボロの車は悲鳴のような轟音をあげた。彼は合間を縫って私を一瞥した。「借金でも?」「借金より厄介なものよ」私は苦笑した。言葉が終わらぬうちに、黒いセダンが急加速し、華麗なドリフトで私たちの前に横付けした。智史が急ブレーキを踏み、二人はフロントガラスに頭をぶつけそうになる。車のドアを乱暴に開けられ、京志の陰鬱な顔が現れる。昔より随分と痩せて見え、だらりとした服を着ていて、目が異様に輝いていた。「安希、帰ろう」彼は私の手首を掴もうとする。私はさっと後ろに下がる。「京志、私たちは、もう終わりですよ!」「俺の許可を得た?」彼は冷笑し、智史を見る。「これが新しい男か?」智史は突然シートベルトを外し、京志を押しのけた。「失礼な真似はしないでください!」京志の目が危険な光を帯びる。「俺が誰だか分かってるのか?」「誰でもいい!彼女が嫌だと言ってます!」智史は死をも恐れぬ覚悟で睨み返す。「彼女は俺が守ります!」京志の拳が振り上がる瞬間、私は車から飛び出し、彼の腕を掴んだ。「京志!やめて!」その言葉に、彼はまるで裏切られたかのような表情を浮かべた。目は困惑に揺れ、唇がわずかに震える。「こいつのために俺大声を叱るか?」私は深く息を吸う。「京志、私たちはもう終りですよ。あなたと野坂栞は…」「婚約はキャンセルした」私の言葉を遮った。「安希、俺は間違っていた。あの時は…」私は、彼の手を振り払って、冷静に言い返す。「京志、傷は謝っただけでいえるものではありません」京志の顔色が青ざめになり、突然ポケットから結婚指輪を取り出した。「ほら、わざわざ用意していたんだ。やり直そう、いいか?」光を浴びたダイヤモンドが、目を射るように輝いている。なんて滑稽なのだろう。かつてはベッドに寄ることすら許さなかった男が、今は指輪を差し出しているとは。思わずに、後ろへ下がって、首を横に振る。「もう要りません」智
アメリカに到着後、私は長く滞在せず、すぐにフランス行きの飛行機に乗り換えた。ここ数年、小泉家からもらった給料はかなり多く、次の仕事を見つけるまで十分に生活できる金額だった。だが、この土地にはあまり詳しくなかったので、気に入った旅行会社を見つけ、個人ガイドを依頼した。ガイドは色白の男性で、京志のような攻撃的な雰囲気はなく、とても整った柔らかい印象だった。私と顔を合わせると、彼は大きく手を広げて自己紹介する。「鹿島智史(かしま さとし)です。同じく東洋人です」私は少し驚いた顔をしながら、笑みをこぼした。「わかるんですか?」智史は眉毛をちょっと動かして、答える。「東洋美人ならではの趣があって、母にそっくりなんです。チャンスがあればぜひ会わせたいですね。きっと気に入ってもらえると思います」私は顔を赤らめ、笑った。雑談を少し交わした後、彼は少し古びた小さな車を出した。「古い車ですが、頑丈なので安心してください」私はこだわらない性分なので、軽く頷いて助手席に座った。ここ数日、智史の案内で、以前見たことのない景色をたくさん見た。しかし会うたびに、彼の目の下に刻まれる深いクマがより一層深く増していくのを感じる。夜、彼が帰るとき、私はつい口にした。「泊まっていきませんか?部屋を用意しますよ」智史はぼんやりしてから、ただ微笑んだ。「大丈夫ですよ。泊まるところはありますから」私は少し厳しい声で言う。「でも鹿島さん、目の下のクマ、日に日にひどくなってるじゃない?鹿島さんは私のガイドでもあり、運転手でもある。疲労運転で事故でも起こしたら、私が困るでしょ」智史は少し驚いた様子で、「そんなに目立ってますか」と呟いた。どうやら彼自身も、自分の疲労が積み重なっていることを自覚しているらしい。私はすぐにフロントに向かい追加の部屋を頼んだが、空室はなかった。智史は唇を噛みしめながら言う。「お心遣いありがとうございます。でも今はフランスの観光シーズンで、ホテルはどこも満室なんです。無駄遣いせずに、そろそろお休みください」私は少し戸惑いながらも、思い切って、彼の手を取り、自分の部屋へと連れて行く。「それじゃあ、私の部屋で休みましょう。十分広いから」京志と付き合う前、私はよく彼の部屋
後ろから駆けつけた栞は、二人の会話を耳にし、しばらく呆然と立ち尽くしす。「どういう意味なの?」栞は口をへの字に曲げ、目に涙をいっぱいにためている。「婚約もしたし、キスもしたのに、今さら私のことが好きじゃないって言うの?それじゃあ、私は何なのよ」京志は視線をそらした。「ごめんなさい」栞は駆け寄って彼の襟をつかみ、涙が止めどなく流れる。「そんな言葉、聞きたくない…いやだ!私たちが付き合ってるって、皆知ってるのよ。なのに私を捨てて使用人のところに行くの?みんなにどう思われるか、考えたことあるの?今すぐ婚姻届を出しに行く!」そう言って、栞は京志の手を握り、外へ引っ張ろうとする。しかし、京志はその場に立ったまま、栞を相手にしなかった。栞は初めて、京志の力の強さを身にしみて感じた。京志は静かに口を開く。「手遅れになる前に決断すべきだ」京志は自分が愛しているのは栞だと思っていた。しかし、安希がいなくなって初めて、自分の本当の気持ちを知った。栞が木から落ちたとき、彼は胸の奥がぎゅっと痛むのを感じた。彼女がいじめられるのを見て、助けようとした。婚約式でスーツ姿の京志は、安希と視線が交わったとたん、心臓が跳ねるように鼓動した。心の奥では、ほんの一瞬、安希にこう言いたかったのかもしれない。「ずっとお前と共にいたい。だが、地位も名誉も約束できない。小泉家は、使用人との結婚を認めはしないからだ」だが、彼には確信があった。この生涯、心を捧げるのは安希だけだと。その言葉は安希には届かない。栞に言葉を続ける。「栞、お前は、俺にとって妹のような存在だ」パン!栞の平手打ちが、すぐに京志の頬に飛んだ。「大嫌い!一緒になりたいって言ったのはあなたでしょう?あなたを愛しているのよ。あのメイドとのことさえ許したのに…今さら私と別れるってどういうことか!父さんに資金を撤回させるわ、小泉家がどうなろうと、構わない!」平手打ち。栞は全力を使った。京志は頬を打たれ、首を傾けて少しぼうっとしている。彼は冷たい目でこの少女を見つめ、声を急に張り上げる。「お前が安希にしたことをとがめはしなかった。お互い穏便に済ませるのがいいんじゃないか!」「あれは自業自得よ。私の男を