戻らぬ愛〜夫に求められない妻の決断〜
これは、朝霧玲子が九条蓮を誘惑しようと試みた、通算九十九回目の夜だった。
だが、九条蓮は容赦なく彼女を突き放した。
「夜は冷える。風邪をひくぞ」
その冷たい一言を聞いた瞬間、玲子の胸の奥で何かが軋む音がした。
玲子は衝動のままベッドの枕を掴み、蓮へ向かって投げつけた。
「九条蓮!私ってそんなに魅力がないの?それとも女が嫌いなの!?」
――そして玲子は、偶然にも蓮の書斎の片隅にある隠れ部屋を見つけてしまう。
そこには、壁一面に貼られた義妹・九条すみれの写真、乱れたシーツ、床に転がる湿ったティッシュの数々があった。
その瞬間、玲子は悟った。
彼は女を嫌っていたわけではなく、自分のことを拒絶していたのだと。
絶望の夜、玲子は祖父・朝霧宗一郎へ電話をかけた。
「おじい様、私、九条蓮と離婚するわ。
三日後、江城の一番大きなホテルで、自分自身をオークションにかける。
九条蓮よりも権力のある男と、結婚してみせるわ!」
そしてオークション当日――
噂を聞きつけ、会場に現れたのは、御神木財閥の跡取り・御神木猛だった。
彼が札を上げた瞬間、九条蓮の中で何かが壊れた。
その日を境に、蓮は冷徹な仮面を脱ぎ捨て、狂気へと堕ちていくのだった――