霜降
幼なじみの浅田浩平(あさだ こうへい)と兄の小林悠斗(こばやし ゆうと)、この二人が、新しくやってきた貧しい転校生、入江薫(いりえ かおる)に心を奪われてしまった。
浩平は私との婚約を反故にした。
「小林美咲(こばやし みさき)なんてお嬢様、俺には荷が重すぎるよ」
そう言い放った。
一方の悠斗は、亡き母の遺言を忘れてしまった。
「薫は本当に可哀想だ。美咲への愛情を少しだけ分けてあげるのは、悪くないだろう?」
そう言うのだ。
私の誕生日には、浩平は薫のもとへ駆けつけた。
母の命日には、悠斗は薫とその母親と、楽しげに食事をしていた。
そして、二人が薫を連れて、港市で開催されるデザインの授賞式に出席している時、私は、三人の思い出が詰まったあの家に火を放った。
死を偽装して、東の都をあとにしたのだった。
けれど、私の死の知らせが港市に届くと、とっくに私を見限っていたはずの二人の男は、狂ったようにその夜のうちに東の都に戻り、焼け跡にひざまずき、声をあげて泣き崩れた。