カンカン
橘結衣(たちばな ゆい)と九条蒼真(くじょう そうま)は、学生時代からの交際を実らせて結婚した、誰もが羨む理想の夫婦だった。
しかし結婚して五年目、蒼真は不倫をした。
結衣は、見るに堪えない写真の束を彼のデスクに静かに放った。泣き喚きもせず、問い詰めもせず、ただ極めて静かな声で告げた。
「あの女と別れるか、私と子供たちが出て行くか、どちらかにして」
それは結婚以来、初めて見舞われた大きな波乱だった。
結局、蒼真は家庭に戻ることを選んだ。
生活は平穏を取り戻したかに見えた。
蒼真は定時に帰宅し、子供たちの面倒をよく見、結衣に対しても穏やかで礼儀正しかった。だが、二人の間には見えない溝ができ、もう以前のような関係には戻れなかった。
ある日、結衣は取材を早めに切り上げ、子供たちを驚かせようと幼稚園へ迎えに行った。
幼稚園の門前に着いた途端、五歳になる双子の悠真(ゆうま)と結愛(ゆあ)が、歓声を上げながら、ベージュのワンピースを着た華奢な女性の胸に飛び込んでいくのが見えた。
その女性はしゃがみ込み、優しく腕を広げて二人を抱き止め、溺愛するような笑みを浮かべていた。
結衣の足が止まり、得体の知れない胸のざわめきを覚えた。
水城莉奈(みずき りな)。蒼真の不倫相手だったあの女が、なぜここにいるのか。
次の瞬間、結衣の血の気を引かせるような光景が目に飛び込んできた。